ニューヨーク・タイムズによれば、ヘルソン州の住民の多くはロシア語を話し、ロシアへの親近感が強いものの、ロシアの支配には反対する者が多いという。

ある男性は「プーチンはいつここに軍隊を送り込むか分からない。逃亡の準備をしている」と述べた。2014年のクリミア併合時にも、ロシア軍の一部が同州に展開した経緯がある。

ロシアの工作員がすでに現地入りしている模様で、正規戦に加え、政治、経済、外交、プロパガンダなど非正規戦を混在させたロシア得意の「ハイブリッド戦争」の舞台になりかねない。

欧米の介入に対し「歯をへし折ってやる」

それにしても、ロシアはこのところ、異常ともいえる対欧米強硬姿勢を強めている。

モスクワ
写真=iStock.com/Mordolff
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5月には、米国の石油パイプライン企業がロシアに拠点を置く犯罪組織のサイバー攻撃を受け、一時操業中止に追い込まれた。2016年以降、米国の外交官130人がキューバなどでマイクロ波攻撃を浴び、神経性の脳障害を発病した謎の事件でも、米国のメディアはロシアの犯行説を伝えた。

チェコ政府は4月、ロシア軍の工作員2人が2014年に起きた軍武器庫爆破事件に関与したとしてロシア外交官18人を追放。ポーランドやバルト3国も同調し、外交官追放合戦が起きた。

これに対してロシアは、米国とチェコを「非友好国」に指定し、国内の外交活動を制限させた。まさにプーチン流の攻撃的、好戦的な「戦狼外交」を展開している。

プーチン大統領は4月21日の議会演説で、他国のいかなる挑発行為にも迅速かつ厳しく対応するとし、ロシアの「レッドライン(越えてはならない一線)」を超えないよう西側諸国に警告した。5月20日には、欧米諸国の介入を念頭に、「われわれから何かを噛みちぎろうとするなら、歯をへし折ってやる」と息巻いた。

「戦火か緊張緩和か」の分水嶺になる

プーチン政権は国内でも保守強硬路線を強めており、反政府活動家、ナワリヌイ氏を投獄、同氏の組織を「過激派」に指定して完全排除する方針だ。評論家のセルゲイ・ラドチェンコ氏は、「プーチン政権は欧米の侵略からロシアを守ることを誓っており、市民の自由の抑圧を、より大きな国家の自由を守るために正当化している」と指摘した。

こうして、ロシアの「戦狼外交」は、欧州では中国の「戦狼外交」以上に脅威となりつつある。

こうした中で、バイデン政権は5月下旬、ロシアへの追加制裁を断念したり、軍縮や気候変動といった利害が重なる分野での対話を打ち出したりするなど、やや柔軟姿勢を見せ始めた。ロシアの「戦狼外交」に、まともに付き合っていられないということだろう。

6月の米露首脳会談が、欧州の戦火か緊張緩和かを占う分水嶺になりそうだ。

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