岡山大病院は世界初の「ハイブリッド肺移植」を実施済み
岡山大病院は2015年4月4日には、当時59歳の男性患者の左右両方の肺移植で、世界初の「ハイブリッド移植」に成功した、と発表している。これは、脳死したドナーと健康な生体ドナーの双方から肺の提供を受ける移植手術だ。
男性患者は肺が硬くなり縮んで機能しなくなる特発性間質性肺炎を患っていた。岡山大病院は、脳死ドナーから提供された左肺だけでは十分に呼吸できないと判断し、男性患者の息子の右肺下部も移植した。
岡山大病院は2016年7月17日にも、世界2例目のハイブリッド肺移植に成功した、と発表している。患者は特発性間質性肺炎と診断された60歳代の男性だった。右肺は脳死ドナーから移植し、男性患者の息子が左肺の一部を提供した。
この生体移植と脳死移植を組み合わせたハイブリッド肺移植は、昨年、京大病院でも行われている。
「脳死ドナー」は欧米では年1万人、日本では年75人
ここで考えてみよう。生体肺移植でもあるハイブリッド肺移植では、健康な人をドナーにしてその人の胸を切り開いて肺の一部を摘出し、患者に移植する。肺の一部を摘出されることでドナーのその後の健康に問題が生じないとは言い切れない。新型コロナの感染で重症化する危険性もある。そもそも生体移植手術は、やむを得ない緊急避難の措置なのである。
1997年10月に臓器移植法が施行されるまで、脳死者をドナーとすることができず、健康な人から肝臓の一部や片方の腎臓の提供を受ける生体移植が盛んに行われてきたが、法的に脳死移植が認められるようになっても緊急避難であるはずの生体移植が日常的に行われている。
なぜだろうか。年間1万人近い脳死ドナーの出る欧米と違い、日本は脳死ドナーが少ないからだ。日本臓器移植ネットワークによると、昨年までの5年間の脳死ドナーの数は年平均75人にすぎない。今年は新型コロナの感染拡大の影響でさらに少なくなりそうだ。この少ない脳死ドナーに対し、移植を希望して移植ネットに登録している患者(今年4月30日現在)は心臓916人、肺484人、肝臓327人、腎臓13128人と多く、登録しても移植の順番はなかなか回って来ない。
生体移植の苛酷さを自覚し、生体ドナーを少しでも減らし、脳死ドナーを増やしていく必要がある。