成功者の周辺で苦しむ家族

私の知人の中には出世したけれど脳卒中で倒れて寝たきりになった人がいます。うつ病になった人もいます。ある知人は、毎日残業続きの生活を送っていましたが、ゴールデンウィークに実家に戻り家族団らんで過ごしたら、連休明けにうつ状態になって会社に行けなくなりました。会社を辞めて地元で家族とゆっくりと暮らしたいと言い出したのです。

上司はびっくりして精神科に連れていきました。精神科医は、あなたは病気ではないですよ。自分の生活がおかしいことに気づいてしまったんですねと言いましたが、上司はせっかくのキャリアを棒に振るのかと本人を説得し、知人はすっかり「よくなって」仕事に戻ったそうです。

かつて私が関わっていた精神神経科思春期病棟には、各界で活躍する著名人の子どもや孫たちが少なくない数、通院、入院していました。成功者が自分中心の発想で生きている周辺で家族が苦しんでいましたが、子どもや孫が不登校やうつ病や自らの生育環境に対するやり場のない感情で苦しんでいても、彼らの人生は成功といえるのでしょうか。

いとも簡単に「発達障害」とラベリングされるようになった

ここ30年増加している発達障害についても考えてみましょう。発達障害の増加理由は、環境化学物質、メディア視聴、睡眠、ストレスなどいろいろと推測されていますが、私はこれらの要因以外に、近年の養育環境の変化も原因ではないかと推察しています。

人は生まれてきたときに誰でもどこかに脆弱ぜいじゃく性を持っているものです。それが、豊かな自然の中で育ち、適度な刺激を受けて周囲の人々との対人関係の中でまれるうちに修正され、社会の中で特に問題なく過ごせるようになったり、逆に持ち味や強みになったりしていきます。

でも、脆弱な部分がもともと顕著な場合や、自然に補完がなされていくような養育環境に恵まれない場合、脆弱性がそのまま、あるいは強化されて、バランスを欠いた発達をせざるを得なくなります。脆弱性を減じるような養育環境がなくなれば、必然的に発達障害が増加することになるでしょう。

かつては、子どもの頃に「落ち着きのなさ」「コミュニケーションの取りにくさ」を指摘されていた子どもたちも、大半は大人になれば立派な仕事をするようになりました。あるいはそのまま大人になったとしても、「地域コミュニティ」はそういう子どもや大人を含めた多彩なメンバーで支え合って共同体を構成していました。

でも、今の時代においては、そのような発達のバランスの差異が顕著な人たちは、規律を強く求める学校生活や社会生活で悪目立ちし、いとも簡単に障害とラベリングされるようになったのです。