トンデモ訴訟で振りかざされた“診断書”の内容

もはやここまでくると、ある種のホラーとしか言いようがない。とは言っても、民事訴訟である以上、何をどう提訴するかは、基本的に原告の自由だ。そして提訴しさえすれば、裁判は確実に開かれる。

しかし裁判に勝つためには、原告(B家)、被告(Aさん)ともに、それぞれ自己の主張を裏付け、それを証明する「証拠」を裁判官に示す必要がある(もちろん裁判官が納得するだけの「証拠」が必要だ)。

そして以下の点が極めて重要になってくる。

B家サイドは、有力な「証拠」として、日本喫煙学会の作田学理事長が作製・交付した、原告となるB家3人の“診断書”を提出したのだ。

その後の裁判の流れを見ると、原告(B家)がこのトンデモ訴訟で勝つための最大のよりどころとしていたのが、この“診断書”だったことは明らかだ。

この“診断書”には、B家家族が罹患りかんした病名について、「受動喫煙症」あるいは「化学物質過敏症」とはっきり記載されている。

加えて“診断書”ではその原因を、「団地の1階からのタバコ煙」とはっきり特定し、しかもその発生源については、「団地1階」に住んでいる「ミュージシャン」だと断定しているのだ。

いずれにしても、この裁判で最も大きな争点になったのが、作田学理事長が作製したこの“診断書”で指摘された、Aさんの喫煙とB家家族の病気との間の因果関係だったと言えよう。

常識的に考えれば、Aさんの喫煙とB家家族の病気との間の因果関係は極めて薄いとするのが一般的な受け止め方だろう。しかしその分野の専門医が下した判断の持つ意味は、極めて重い。この種の裁判では、それはなおさらだ。

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“診断書”は医師法に違反する形で作成されていた

Aさんサイドが勝訴するためには、“診断書”の指摘を全面的に否定し、その上でそのことを裁判官に納得してもらうことが必要だ。しかしそれは決して簡単な作業ではない。むしろ専門医というある種の権威が下した判断を、裁判所の中で全面的に覆すというのは、相当に困難な作業になることが予想された。

ところがそうした状況は一変する。それというのも、この“診断書”の信用性そのものに大きな疑義が生じかねない、重大な問題点が見つかったのだ。

その問題点とは、医者である作田理事長が、B家家族を直接診察することなく診断書を書き、交付していたことが明らかになってしまったことを指す。

そもそも、医師が患者を直接診察せずに診断書を交付することは、医師法20条で禁止された行為だ。つまりこの“診断書”は、医師法に違反する形で作製されたものに他ならない。

こうなってくると、原告サイドの主張を立証する上で決定的な証拠となるはずだった“診断書”の信用性が限りなくゼロになってしまった以上、とうてい原告、つまりB家にとって勝ち目は無かった。