スピンコントロールはアプローチでも要求される。強いと思ったアプローチがキュキュッとスピンが効いてピンの真横。ふわりとあげて転がしてピンの横。それを様々なライから完璧に行える。3日目18番、フェアウェイバンカーから打った松山のショットはグリーンを大きくオーバーして、解説の中嶋常幸が「最高でも2mにしか寄せられない」と言ったのを手前から転がして50cmに寄せた。

最終日の13番グリーン奥から左足下がりのラフからのアプローチも、フェースを空に向けるほど開いてふわりとボールを浮かせて転がし、ピンの横に付けバーディを奪った。アプローチで鉄壁の守りを固めただけでなく、攻撃までできたのである。

松山はドライバーショットでもスピンコントロールを求めている。「飛距離よりも操作性」と松山はスリクソンのZX5を信頼し愛用している。最終日6打あった2位との差が2打まで追い上げられていた終盤の17番で完璧なドローを放ち、その直後の18番では逆に完璧なフェードボールで狭い樹幹を潜り抜けてフェアウェイをとらえた。これはまさに優勝を決めるウィニングショットだった。

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お尻の全く動かないパッティング

忘れてはならないのがパッティングである。松山は元来パットの下手な選手ではなかった。ところがPGAツアーではずっとパットランキングが100位台という低迷ぶりだった。

マスターズに優勝するには超高速グリーンを克服できるパット力が絶対に必要である。今年初めてコーチを付けたが、聞こえてくるのはスイングのことばかり。パットに関しては試行錯誤を繰り返しているということだけ。

とても気がかりだったが、今回は初日からパッティングが安定していた。1mのショートパットは外さない。ワンピンの入れ頃外し頃のパットも決めてくる。初日2位発進ができたのは、これまで目を被うばかりの悲惨なパットがまったく姿を消したからだ。

とはいえ、水物なのがパッティング。「今日入っても明日入るとは限らない。だから眠りたくないの」と言っていたのは岡本綾子。松山のパットがこのままの良い状態をキープできるか大変に心配したが、4日間ともしっかりと入れ込んだ。そこには揺るぎない自信が覗えた。

解説の中嶋常幸が「お尻がまったく動いていない」と言ったが、まさにその通り。'81年の全米オープンでロングパットを次々と決めてジャック・ニクラウスと死闘を繰り広げて2位になった青木功は東洋の魔術師と呼ばれたが、お尻がまったく動かないパッティングだった。背中側から見るといつ打ったかまったくわからない。

松山の自信に溢れたパッティングは、コーチとの試行錯誤がマスターズ本番に間に合ったということなのだろう。