相手は人間ではなくむしろコース
ジョーンズは14歳で全米アマに初登場して以来、天才と言われ続けていたが、7年もの間メジャーを制することができなかった。しかしあるとき、「ゴルフプレーで相手にするのは仮想の相手、パー爺さん」であることに気づいた。
つまり、相手を気にせずに自分のプレーを全うすること。相手は人間ではなくむしろコースだということ。目の前のボールに全集中できるかということ。バーディを臨むのではなく、パーを相手にしながらバーディを待つということ。これらのことが「オールドマンパー」には含まれている。
松山が優勝できた要因は、このジョーンズの「オールドマンパー」を行使しできたことに他ならないと私は考える。もちろん、この「オールドマンパー」はゴルフプレーを向上させる重要な精神であり、マスターズだけに限るものではない。
しかしオーガスタナショナルという非常に特殊な難コースとマスターズという最高の大会を手中に収めたい世界中の強者たちとの争いを勝ち抜くには、マスターズを制するための「オールドマンパー」を行使できなくてはならない。
松山はそのための特殊な「オールドマンパー」を、過酷な練習とトレーニングによって鍛え上げてきた自分のゴルフで成し遂げたのだ。松山流の新しい「オールドマンパー」によって優勝を果たしたと言って良いだろう。
「待つ」ことができるようになった松山
そのことを具体的に検証していきたい。
まずは「相手にするのは人ではなくコースである」ということ。マスターズの舞台となるオーガスタナショナルは、実はアベレージゴルファーが愉しめるように造られたコースである。美しくやさしく見える。ジョーンズは言う。
「ラフがない広々としたフェアウェアウェイ。プレーヤーには伸び伸びとドライバーで球を飛ばしてもらいたい。安心できないのはセカンドショットからで、フェアウェイはマウンドがあり、複雑な傾斜のライになることが多い。しかもグリーンを速く固くし、ピンポジションを難しくすれば容易には攻められない。一見やさしそうに見えるオーガスタナショナルも至難のコースに変貌する」
これは1934年の第1回大会から何も変わっていない。やさしいセッティングならボギーであがるのはたやすいが、グリーンを速くしピンポジションを難しくすれば、世界のトッププロでさえパーであがるのも難しくなる。無闇にピンを目がければ大叩きもあり得るのだ。
パーをキープしながらバーディが来るのを待つ
2011年にローアマを獲得して以来、目指すは優勝であり、それを果たそうと思って無理に攻めることで痛い目に逢ってきた松山。辛酸を舐め続けて10年、ようやくジョーンズの精神、「オールドマンパー」の意味するところがわかってきた。慎重に攻めながら、チャンスを待つ。パーをキープしながらバーディが来るのを待つ。