プロゴルフの松山英樹選手が日本人男子で初めて海外メジャーを制した。『書斎のゴルフ』元編集長で、『マスターズ』(ちくま新書)を上梓した本條強さんは「松山のマスターズ優勝は奇跡ではなく、勝ち方は歴代の優勝者に共通するものがある。それはマスターズを作ったボビー・ジョーンズの『オールドマンパー』という根本的なゴルフ精神だ」という――。
マスターズ歴代優勝者に共通するものとは何か
マスターズに優勝した松山英樹は、胸を張って言った。
「日本人には勝てない。そう言われていたことを覆せた」
戸田藤一郎と陳清水がマスターズに初挑戦したのが1936年。第2回大会であり、それからこの2021年まで、日本人が勝つまでに実に85年の歳月がかかった。尾崎将司、青木功、中嶋常幸など、日本ゴルフ史に燦然たる爪痕を残した強者を含め、延べ122回の挑戦があったが、優勝への壁は非常に高く、「不可能」といわれるのも当然だった。
実際、松山が優勝できると心底予想できた者はいなかっただろう。松山は2017年の全米プロで最終日のアウトまで首位に立ちながら、バックナインで崩れて5位になってからは、PGAツアーで優勝できず、世界ランクもそのときの2位から今年のマスターズ直前には25位まで滑り落ちて、「松山はピークを越えた」というアナリストさえいたのだ。
私は昨年、筑摩書房から新書『マスターズ』の執筆を依頼され、マスターズの歴史を詳細に調べていくうちに、歴代の優勝者に共通するものがあることがわかった。その一つがマスターズとその舞台となるオーガスタナショナルを創ったボビー・ジョーンズの精神を踏襲したものが勝てるという事実だ。それは即ち、彼が見いだした「オールドマンパー」という根本的なゴルフ精神である。