職員は警察から事情を聞きかれ、取り調べを受ける
警察も職員から事情を聞き、事件性がないとわかれば帰っていきます。それでも、施設サイドは、それで一件落着とはいきません。当事者が「監禁されている」と思い込んでいる場合は、また警察に通報する可能性がありますし、担当の職員もビクビクしながらケアすることになるからです。
「通報された3人のうち、おふたりはご家族と話し合いのうえ退所、在宅での介護となりました。残るおひとりはご本人を交えてご家族と面談し、老健がどのような施設でご自分が入所した事情を納得されたので、現在も当施設で過ごしておられます」
この3件の警察沙汰は、職員の心に大きな傷を残したそうです。
「ケアする側とケアされる側、職員と入所者の関係は互いに信頼があって成り立ちます。信頼されていると思えるから職員も親身になるし精一杯のケアをしようとする。3人の方も通報された当日も職員と穏やかに接していましたし、“監禁されている”と思っているような素振りはまったくありませんでした」
「しかし、通報という行動に出た。たとえ認知症とわかっていても職員からすれば、『そう感じていたのなら、なぜ言ってくれなかったの?』『なんで隠していたの?』と。裏切られたような思いになります。コロナ禍で、ただでさえ職員はさまざまなことに気を配る必要があり、ピリピリしています。それでも入所されている方々には、それがストレスになってはいけないと、努めて明るく接しているんです。一部に過ぎませんが、その努力をわかってもらえていなかったという事実はショックでしたし、仕事に対するモチベーションも下がりました」
通報によってパトカーが横付けされれば風評が立つ
また、高齢者施設にとっては、それとは別の危惧があるといいます。
「ウチは幸い田園のなかにポツンと建つ施設なので、警察が来ても気づかれることはほぼありませんが、街中の施設でそうした通報によってパトカーが横付けされれば風評が立ちますよね。『あそこは入所者を虐待したんじゃないか』とか。誠実に仕事をしている施設、職員からすれば、たまったもんじゃないですよ」
無実の罪を着せられたような気になるというのです。
「報道されることはないですが、コロナ禍によって、こうしたトラブルに悩んでいる施設は多いと思います。知人が勤めている特別養護老人ホームでも同様のことがあったと聞きました」
コロナ禍は変異株の出現によって再拡大しています。これによって飲食店をはじめ多くの業種と関係する人々に大きなダメージを与えていますが、介護業界に携わる人たちにも気持ちをざらつかせる事態が起こっているのです。