犬の糞にゴミ放置、大騒音とやりたい放題
こうしたことを背景に、社区では「自治」が求められるはずだった。しかし、市民がボトムアップの力を発揮させることにはならなかった。社区のトップは住民による選挙で選ぶことにはなっていても実際は上からの指名制であり、意志決定もまた“扉の内側”で行われた。相変わらず、居民委員会によるトップダウンでものごとは進められた。
2013年当時、筆者の友人が住んでいた住宅の小区の管理は、問題が山積していた。秩序なきパーキング、犬の放し飼いや糞の放置は当時誰もが頭を痛めていた。窓から下を見下ろせば、上階の住人による投げ捨てでその軒下はゴミだらけ、隣家の勝手な建て増し行為で朝から耳をつんざく工事の大騒音と、住民のやりたい放題だった。
自分たちが選んだリーダーのもとでルールを作り、住民がこれに従って住みよい居住環境を作る――そんな「自治」からはほど遠いのが実情だった。
自分たちで決めるなんて「面倒くさい」
筆者はこの小区に長年住む定年退職者(当時60歳)に意見を求めた。するとこんな回答がきた。
「我々がやらなくても、街道(社区を管理する行政組織)が解決してくれるから」。
民主的な自治が制約されてきた中国で、市民からすれば悲願の「住民自治」だと思っていたが、決してそうではなかったのだ。しかも驚いたことに、住民にとってこれらは「面倒くさいこと」に過ぎなかったのである。
同じ小区の住民とはいえ、上海人はもちろん、外省からの移住者もいれば、外国人も住んでいる。育った環境も違えば、受けてきた教育も異なる。これら住民の中からリーダーを選出し、公正公平なプロセスのもとで自治を実現することは至難の業だ。時間も費用もかかる民主的な方法よりも、一党独裁のトップダウンのもとで物事がさっさと決まって行く方が、政府にとっても住民にとってもありがたいということなのか。
2013年から8年の月日が流れた現在、上海における小区のゴミ問題は、行政の指導による強制分別とスマートフォンを活用したIT管理で解決が図られている。