お金の問題を突きつけられ「今そんなことを言われても」
2021年1月27日、国土交通省・法務省の両省が遺品処分の委託先を生前に定めるルールを整備すると発表しました。これが普及すれば家主の負担は随分軽減されるはずです。
安藤さんは家主に「自殺」の連絡をした際に「しっかりお金は払ってもらってよ」と言われてしまったので、亡くなった賃借人の両親に「もろもろ発生する損害の請求があると思います」と伝えてしまっていました。
両親は、大切な娘が亡くなってしまった悲しみと「なぜ死んでしまったのか」という複雑な思いに加えて、瞬時にお金のことを突きつけられたのです。
逆に「今そんなことを言われても」と声を荒らげられたので、安藤さんは私のところに連絡してきたと言うわけでした。
両親は第一発見者となってしまっていたので、警察からいろいろと確認される立場。今日のところはそのままお帰りになってもらって、落ち着いた頃に私が家主の代理人としてお話しするということになりました。
緊急事態宣言中ではありましたが、両親側の意向もあり、10日ほど過ぎた頃、私はお家に伺いました。住まいは自殺の現場となった東京の足立区ではなく、埼玉にあるアパートでした。物件からは電車で1時間半くらいでしょうか。賃借人は東京の会社に勤務するために、自立して家から出られていたのでしょう。
お焼香をさせていただこうと思ったのですが、小ぶりなリビングなのにご遺骨は見当たりません。私が申し入れても、「先に話を」と軽くかわされてしまいました。リビング以外を見られたくなかったのか、理由は分かりませんが、それ以上何も言えない雰囲気でもありました。
「本来であれば100万円ほどご請求したい」
「これからどうなるのでしょうか」
父親は40代後半でしょうか。お金のことを、ひどく気にしているようでした。
「これからいったいいくらのお金が要求されるのでしょうか」
おとなしそうな母親も、心配のようです。
「見ての通り、私たちは裕福じゃない。だからお金を請求されても払えません。いったいいくらくらいなんですか? 見当もつかない」
父親が、少し不安そうに呟きました。
今回は発見が少し遅れてしまい、匂いを消すために特殊清掃が必要です。また病死ではなく自殺ということで、確実に部屋の募集時には告知義務があり、そのために家賃も相当減額しないと入居者を確保できません。もともと6万円弱の小さなワンルームですが、賃料を下げると家主の借り入れの返済に支障がでます。その差額分に損害賠償も合わせると、ざっと100万円。
ただ相続放棄されるくらいなら……。家主からは、その辺りの意向も私から両親に伝えるよう、明確に提示されていました。
「本来であれば、損害賠償も含めて100万円ほどはご請求したいところです。あの物件は、まだ築2年なので」
私がそう言った瞬間、両親の顔は凍り付きました。
「払えない、払えないです。そんな額はとても払えません。コロナで私の収入も激減しているんです。ここも賃貸だし、財産なんて何もありません。私たちだって生きるのに精一杯なんです」