僕も、もともとは「オリンピアン」が夢だった。でも、それが叶ったとき、それはあくまで「ツール」だったんだと気がついた。僕はオリンピアンになって「人をおどろかせたかった」のだ。「日本人が陸上競技でメダルを取るなんて!」とおどろかれることが夢だったのだ。

職業という「ツール」で叶えるものは何でもいい。「人を幸せにしたい」「黙々と作業したい」「とにかくお金を稼ぎたい」「趣味のために最低限の収入を得たい」。きっと、人それぞれだろう。その道を選んだ理由さえちゃんとあるのなら、それでいいのだ。職業は「ツール」。そう思えれば、ためらうことなく使い倒せるし、ときには交換だってできるはずだ。

人生は暇つぶし

たとえ陸上競技で世界一の人間でも、1000年前の世界だったら、「村で一番足が速い男」という評判が立って、それで終わりだったのだろう。そう考えてみると、誰にとっても、いつの時代でも、共通で価値があることなんて、何もないのかもしれない。だったら、結局は、自分の思うようにやるしかないのではないか。

僕は、人生の苦しさのほとんどは、自分自身について「この部分はすばらしいけど、ここはすばらしくない」と思い悩んでしまうことにあると思っている。「すばらしい」とか「すばらしくない」という価値観から離れてしまえば、肩の力が抜けて自由になれる。あとはそれこそ「なるようになる」と思うのだ。

なにもみんながみんな「世捨て人」みたいになれ、と言いたいわけじゃない。人の評価が気になるのは、当然のことだ。でも、思い悩んだら、そのことからちょっと距離をとって考えてみるといい。そのときだけでも「ま、人生って暇つぶしだよね」と考えられれば、生きていくのはずっとラクになる。

何か、あらがうことのできない運命に悩んでいる人に、僕はこの言葉を伝えたい。「人生は暇つぶし」だ。あまりに周囲の期待が高かったり、注目を集めていたり、勝敗が決まるレールに乗ってしまっている人たちにも、僕はこの言葉を伝えたい。「人生は暇つぶし」。

無邪気なモチベーションを保つ

無邪気に「楽しい!」と感じられることは、モチベーションをグッと引き上げてくれる。反対に、人から強制されていたり、義務的に仕方なくやっていたりすると、モチベーションはものすごく下がる。僕たちのやる気って、そもそもそういうものではないだろうか。いやいや取り組んでみたところで、思うような効果は出ない。仕事でもプライベートでも、「楽しい!」という無邪気なモチベーションを、いかに保つかがポイントだ。

撮影=関健作