「調査報道大賞」と「PEPジャーナリズム大賞」の中身

——それぞれの賞の特徴を教えていただけますか。

【澤】毎年審査がある賞はふつう、それに先立つ1年間に発表された記事を対象にしますが、調査報道大賞ではそこが3年間になっています。さらに10年前のニュースでも、この3年の間にその影響が明らかになったものは審査の対象になります。「最近、法律が変わって話題になっているけど、そのきっかけは何年も前の○○新聞の報道だって」というようなケースですね。

調査報道は取材を進めるにも、発表の影響が出るにも時間がかかるので、そこはとくに留意したいと思っている点です。

【船橋】PEPジャーナリズム大賞は表彰部門が三つあり、第一の「大賞」では「質の高いジャーナリズムを、特に次世代を担うインターネット・メディアにおいて根付かせること」を目的とし、対象は「インターネット上に公表された日本語の記事」となっています。

かつては月刊誌がフリーのジャーナリストを育てていましたが、そういう場が今は非常に少なくなっているので、新聞社や雑誌社のデスクの代わりになって、ジャーナリストを育てていければいいなあなどと内心思うところもあります。ネット空間でフリーランスで記事を書いているような人を発掘し、応援したい。

第二の「現場部門」では、「生活ジャーナリズム」といいますか、日々の生活の場で身近な課題を発見し、それを報道して済ませるだけでなく、その課題を社会に訴え続け、インパクトを及ぼすような報道が対象です。

第三は「オピニオン部門」です。私は「正論を吐く」ことより「質問をする」ことが、ジャーナリズムの一番大切な役割と思っています。これはオピニオン部門そのものではないけもしれませんが、待機児童問題で「保育園落ちた日本死ね!!」と書いた匿名ブログのような、「最初の問題提起」をした論考などをぜひ、発掘していきたいと思っています。

これからの調査報道の在り方

——「生活ジャーナリズム」について、少しくわしく教えていただけませんか。

【船橋】コロナ、ゴミ問題、待機児童の問題、シングルマザーの貧困問題、多民族共生の課題など、身近に社会問題はたくさんあります。

写真=iStock.com/BeyondImages
※写真はイメージです

そういった現場に密着して取材し、一緒になって解決の方法を考える。報道して終わりではなく、行政につないだり、議員立法で法律をつくってもらうなど、少しでも問題解決を前進させようとする。「ジャーナリストはアクティビストになってはいけない」と思いますが、より社会に深くかかわり、その課題解決のための政治プロセスまでしっかり見届けるジャーナリズムを元気づけたいという思いもあります。

——問題解決を優先していくと、どんどんアクティビストに近づいていきそうですが、線引きはどこにあるんでしょうか。

【船橋】定義は難しいですが、私自身の話をさせていただくと、私が記者として一番最初に取材したのは熊本の水俣病の患者さんたちでした。彼らの話をとことん聞くことから取材は始まります。そして、彼らを支援するそれこそアクティビスト——そういう言葉は当時は使いませんでしたが——の方々とも信頼関係を結びました。