【船橋】しかし私は、彼らが敵と思っているような人たちにも話を聞くわけです。これは記者としては当然のことなのですが、支援者の人々の中には「裏切られた」と感じて、「やっぱり船橋さん、あっち側なんだね」と言う人も出てきます。私はそう言われたときも説明はしませんが、本当のところは「どっち側」でもないのです。“記者側”でしかありません。独立ということです。記者としてのこの心構えはとても大切なことだと思っています。

【澤】そこは本当に難しいですね。『ジャーナリズムの原則(The Elements of Journalism)』(日本経済評論社)という本でも「ジャーナリズムに絶対必要なものの一つは、取材先から独立していること」と書かれています。船橋さんが「両側から話を聞く」という姿勢を守ろうとするのも、まさにそういうことなのだと思います。ぼくも外国人労働者の家に泊まり込んだりしていましたが、それはあくまで記者としてであって、彼らの代理人にはなれない。記者としては、その覚悟が大事です。

「ジャーナリズムには世の中をよくする力もある」

【澤】ただ思い入れのある問題であればあるほど、解決者になりたい。これは人として当然のことでしょう。それについて「ソリューション・ジャーナリズム」という言葉があります。苦しんでいる人を取り上げるだけでなく、さらに進んで、「これについて、何か解決策を考えている人はいないのか」ということまで目を配って、その紹介に力を入れていく。最近とくに地域メディアで、そういった動きが強まっていると感じます。

——私が以前いた週刊誌では、「社会的インパクトとは、大臣の首を取ること」でした。しかし生活者の目線に寄り添っていくと、価値観がまったく変わってきます。

【船橋】大事なのは世の中がよくなること、誰かが救われることで、不正をした政治家が公職を辞すのは大きなニュースとしても、報道を通じて新しい法律や制度が生まれ、それによって問題が解決に向かうとしたら、それ以上の持続的な社会的インパクトがあるわけです。

【澤】確かにそうですね。最近のケースでは、日本で働く外国人の家の子供たちがきちんと学校に行けておらず、就学しているかどうか不明の人が1万人以上もいるということを、毎日新聞さんが報道キャンペーンとして伝え、それによって文科省が制度の運用を変え、救われた人が大勢出たということがありました。ジャーナリズムには世の中をよくする力もあるんだということですね。

——ウォーターゲートのようなウォッチドッグ的な報道から身近な悩みを伝えるものまで、調査報道はこれまで以上にジャーナリズムの重要な機能の一つとなっていくでしょう。船橋さん、澤さん、本日はありがとうございました。

(構成=久保田正志)
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