「子供を全員東大に入れたなどという話はとても一般的できない」

筆者が気になったのは、このイタリアンのテーブルを囲む教育ママたちの言葉の端々に、「子供を麻布から東大に進学させた●●さんの話では……」など、彼女たちが他人・知人から聞いた(又聞き)体験談や成功事例が頻繁に登場することだった。

子供の教育に関しては、こういった特定の個人の体験談がテレビや雑誌などのメディアで紹介されているのをよく目にする。多くのママたちは直接聞く、こうした「ここだけの話」のような情報に多大な影響を受ける。

しかし、子供の学力や成果は、本人の能力、性格、努力、家庭や友人などの成育環境などさまざまな要因が絡み合って生み出されるものだ。

子供を有名大学に進学させたい親が、実際に進学させた親の体験談を聞いて実践したとしても、同じようにうまくいくとは考えにくい。教育経済学者の中室牧子氏は、著書『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の中でこう述べている。

中室牧子『「学力」の経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)

〈子どもを全員東大に入れたなどという話はとても一般的とはいえません。むしろ「例外中の例外」なのです。しかし、教育という分野においては、そういう例外的な個人の体験談ほど、注目されがちであるようにも思えます。そもそも特定の個人の成功体験を一般化することはとても難しいことです。ましてや、「例外中の例外」である個人の逸話を一般化することはさらに難しい。それにもかかわらず、そうした逸話をやみくもに信じて同じことをしてしまっては、かえって子どもを成功から遠ざけてしまうのではないでしょうか〉

もちろん、このような成功体験を聞きたい人の多くは、同じようにすれば自分の子供が成功すると信じているわけではなく、成功のエッセンス(本質)を知りたくて、情報を求めているところもあるだろう。

ただ、中室氏も同著で述べている通り、「どのような教育が成功する子どもを育てるのか」という問いに対しては、その原因と結果、すなわち因果関係が明らかなものが何かを知ることの方が重要である。

その意味で、前述したイタリアンママたちの「他人の体験談トーク」には決定的に欠けていることがある。それは「子供の学力にもっとも大きな影響を与える要因」となる親の「年収と学歴」に触れていないことだ。