いい面も悪い面も含めて「好き」になる

産業再生機構自体、銀行員、コンサルタント、会計士、投資ファンド、弁護士、労働組合、官僚など、非常に多様なバックグラウンドの人たちの寄せ集めだった。当初は、そこから起因する軋轢や内部対立は日常茶飯事だった。幸いCOOである私自身は、それまでに同じような状況でいろいろと「痛い」経験をしてきたのと、これらの職種の多くを自分自身で体験していた。だから組織内部が対立から協調、団結へと転換するプロセスは、ほぼ予想通りのシナリオでハンドリングすることができた。

おそらく肝心なのは、「相手に興味を持つ」ということなのだと思う。相手に興味を持てば、当然そのクセも見えてくる。かつては仕事後の飲みニケーションや、いわゆる「タバコ部屋の会話」でコミュニケーションを取ったものだが、現在はなかなか難しくなっている。だが、その気になればコミュニケーションの機会などいくらでも作ることができるはずだ。

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こうしてコミュニケーションを取った結果、相手のことがいい面も悪い面も含め見えてくるはずだ。このとき、ある意味ではいい加減な部分やダメな部分を含めて、人間を好きになることが「理解」への第一歩だ。

アメリカ先住民には、「愛するということは、相手を理解すること」という意味の言葉があるそうだ。好きになれば好奇心が湧いてくる。どんなに嫌なやつでも、好奇心を持って観察すれば、その裏側にある人間の切ない部分、愛すべき弱さが見えてくる場合がほとんどである。それがわかれば、その人間は、もう半分あなたの手中に落ちたも同然である。

始末が悪い、優秀なのに働かない社員

相手のことを理解するためには、「相手に関心を持つ・好きになる」ことが重要だと述べた。しかし、残念ながら、自分が相手をいくら好きになろうとしても、相手がその気持ちに応えてくれるとは限らない。それほど人間関係というものは単純ではない。

だからといって、組織の「問題児」を放置していると、その毒は組織全体に回りかねない。リーダーは時に、果断なる手を使う必要も出てくる。

携帯電話会社の立ち上げで、ある大手メーカーから出向してきた人がいた。キャリアもあり、さほど無能には見えない。にもかかわらず、まったく働く意欲がなく、むしろ積極的にサボっているように見えた。それなりに能力があって、それなりに責任のあるポジションにいた上に、そこそこ弁もたつのでよけいに始末が悪い。誰が見てもその人がいなくなったほうが、仕事は前に進む状況であった。