必要だったのは「ステイホームタウン」というスローガン
若い人でも、家に一人で閉じこもっているうちに、不安がつのって眠れなくなったり、昼夜逆転の生活になったり、うつや過呼吸に陥ったりする人もいます。「自分もコロナかもしれない」という思いに囚われて、ストレスを抱え込み、微熱が続く人、不整脈や帯状疱疹などを引き起こす人もいます。
命を守るためのステイホームが、こうしたさまざまな健康被害を引き起こす可能性があるのです。このことを、私は勝手に「ステイホーム症候群」と呼んでいます。
日本中が新型コロナを恐れてステイホームしていたわけですが、私にしてみれば、ステイホーム症候群のほうが100倍怖い。私のクリニックの患者さんで、新型コロナが原因で亡くなった方はいませんが、ステイホーム症候群で亡くなった方は数人います。ある方は、ステイホームを守って家から出ない、歩かない生活を続けているうちに、転んで骨折して入院し、結局、入院先の病院でお亡くなりになりました。
だから、コロナ禍で掲げるべきスローガンは「ステイホーム」ではなかったのです。ステイホームでは家に閉じこもって歩かない、体を動かさない生活に陥ってしまうので、「ステイホームタウン」というべきでした。
ステイホームタウンをスローガンに、「あんまり遠くには行かないでね、でも歩こうね」と伝えれば、歩かずに病気になることは防げたのです。
コロナ怖い怖い病にかかっていませんか
私がステイホーム症候群と名づけて、外来に来られる患者さんに「歩いてね」と言い続けてきたように、危機感を持っている医者は多くいます。南多摩病院総合内科の國松淳和先生は、新型コロナに対する不安がつのっていつもと違う精神状態に陥ってしまうことを「シャムズ(CIAMS)」と名づけています。
シャムズは「COVID-19/Coronavirus-induced altered mental status」の略で、直訳するなら、コロナウイルスによって引き起こされる精神状態の変化のこと。不安からイライラがつのり、いつものその人であれば絶対に言わないようなことを言うようになったり、いつもは穏やかな人が急に怒りっぽくなったりすることです。
外来診療を行っていると、まさにシャムズの患者さんだらけです。
「微熱があるんです」とおっしゃるので、測ってもらうと36度7分。
そんなに気にするほどではないなと思っていると、
「だるいんです、それに食欲がないんです」と。
「季節の変わり目は体調を崩しやすいですよね。私も同じです」と伝えると、
「それだけじゃないんです。なんだかイライラするんです」と、早口でおっしゃる。
「あー、イライラすることもありますよね」と返すと、
「いやいや違うんです! 味覚もなんだかおかしいし、私はコロナなんですよ。先生、わかってくださいよ」
と言って怒りだす。そんな患者さんが多々いらっしゃいます。
なかには殴りかかるような勢いで、怒りだす方もいます。それだけで、「ああ、コロナではなく、シャムズやなぁ」とわかります。いうなれば、シャムズとは「コロナ怖い怖い病」なのです。