日本で深刻なのは「パンデミック」より「インフォデミック」

また最近では、タレントさんやスポーツ選手など、有名人が感染したという報道が相次いでいます。ここで、ちょっと考えてみてください。誰もが知っている有名人というのは、万に一人もいませんよね。多く見積もっても、人口10万人に1人くらいでしょうか。

そのくらいまれな人たちのなかでも次々に感染が見つかっているということは、それだけ市中感染が広がっているということです。誰が感染していてもおかしくない状況に、すでになっているということ。

その一方で、重症者数、死亡者数はそれほど増えていません。何が言いたいのかといえば、新型コロナは、誰もがなりえる、数ある病気の1つにすぎず、ほとんどの人は無症状または軽症だ、ということです。

日本においては、パンデミック(感染爆発)よりも、「インフォデミック」のほうが深刻です。インフォデミックとは、不確かな情報が大量に拡散されて現実世界に悪い影響を与えてしまうこと。

連日のワイドショーの報道が、視聴者の不安と恐怖を煽り、家に閉じこもらせてステイホーム症候群やシャムズを生んだ。これはまさにインフォデミックそのものです。

さらに、過度な自粛が経済をより悪化させることで、経済破綻する人、行き詰まる人、自殺を選ぶ人も増えるでしょう。テレビ(特にワイドショー)によるインフォデミックが、国民を殺している。そう言っても言い過ぎではないと思います。

国民を震え上がらせた、岡江久美子さんの最期の中継

志村けんさんと岡江久美子さんという2人の死も、多くの人を震え上がらせました。3月末に志村さんが亡くなったことが報じられ、日本中が悲しみに暮れました。さらに影響が大きかったのが、岡江さんの死だったように思います。あんなに元気で明るく、まだまだお若い印象の岡江さんが、ぽろんと亡くなってしまった。

でも、岡江さんは数カ月前に乳がんの手術に続いて放射線治療を受けていたそうなので、一時的に抵抗力が下がっていたのだと思います。私たちがテレビの画面越しに知っている元気な岡江さんでは、一時的になかったのでしょう。

岡江さんが亡くなったとき、夕方のワイドショーはこぞって無言の帰宅を生中継しました。お骨となって届けられ、さらに玄関先に置かれた遺骨が入った箱を、夫である大和田獏さんが受け取る、その様子を生放送で流したのです。

通常であれば、亡くなってから24時間が経過しなければ火葬することはできません。そう法律で決まっています。ですから、お骨になるまでに3日ほどかかります。ところが、岡江さんは亡くなった翌日にはお骨になって帰ってきました。当時は、葬儀場も怖がって、葬儀が執り行われることもなく直葬になり、「骨からもうつるかもしれない」と言われて、ご遺族は骨を拾うことさえできなかったそうです。

そうした、無言で自宅に戻られる様子を生中継したのですから、それはもう衝撃的でした。あの元気な岡江さんがこんなふうに短期間で亡くなり、死んだらお骨になって帰ってくるのか……と、まさに恐怖のイメージを人々に焼きつけてしまったのです。

105歳のおばあちゃんも怖がるコロナ報道

私が在宅医療で診ている105歳のおばあちゃんも、「コロナが怖い」と怯えています。

その方は、寝たきりで歩くことはできませんが、頭はしっかりしていて一人暮らしを続けています。もう何年も主治医として週に1回、様子を見にうかがっていて、すっかり信頼関係ができているつもりなのですが、そのおばあちゃんから先日、「しばらくの間、来ないでほしい」と言われました。理由を聞くと、「コロナが怖い」と。

長尾和宏『コロナ禍の9割は情報災害 withコロナを生き抜く36の知恵』(山と渓谷社)
長尾和宏『コロナ禍の9割は情報災害 withコロナを生き抜く36の知恵』(山と渓谷社)

100歳を超えているのだから「コロナで死んでもかまわない」と思うのかなと思ったら、まったく違いました。「コロナは怖い、コロナでだけは死にたくない」とおっしゃるのです。訪問するといつも大音量でテレビを見ているので、「コロナは怖いぞー、怖いぞー」と煽るワイドショーに、おばあちゃんも不安を掻き立てられてしまったのでしょう。

テレビ番組がコロナ一色だった半年間ほど、ワイドショーには連日同じような人が登場し、「このままでは大変なことになりますよ」「医療は崩壊しますよ」「40万人が死にますよ」と、ただただ煽りまくっていました。その様子を見て、ワイドショーというのは煽ってなんぼ、視聴率を取ってなんぼなんだな、とよくわかりました。

そんなテレビをずっと見続けていたら、頭の中が不安だらけになってしまうのは当たり前。みんなの不安を掻き立て、家に閉じこもらせてステイホーム症候群やシャムズをつくり上げていた犯人は、私はメディアだったと思っています。

外来診療や在宅医療で出会う患者さんたちには、「テレビを見過ぎないようにね」と、いつも伝えていました。特に高齢者や闘病中の方は、「コロナになったらどうしよう」「死ぬんじゃないか」と、ことさら恐怖に怯えていたので、「テレビを見ないで。見るなら、お笑い番組か、歌番組を見てね」と言い続けていました。

視聴率のためにただただ煽り続けるワイドショーから距離を置くこと。それが、心の平穏を保つ一番の治療法です。

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