「後輩が買えるなら、俺だって」と見栄っ張りな夫が始めた物件巡り

当時の経済状況を振り返ると、2010年に入り、2013年ごろまで日経平均株価はおおむね1万円台で推移していたが、2012年末に発足した第2次安倍晋三内閣の、いわゆるアベノミクスの効果で、じわじわと上昇。2015年4月22日に、終値で約15年ぶりに2万円台を回復した(その後7月に、中国の株式市場で上海総合指数の急落を受け、日経平均は再び2万円を割り込んだのだが)。

給料やボーナスが増えたとか、消費者には、なかなか景気が良いという実感が湧かないものの何となく景気が上向くのではという雰囲気はあった。

蓉子さんの夫が住宅購入を検討したのも、2014年4月に8%に引き上げられた消費税が、2015年10月に10%になるということで、その前に買ったほうがおトクだと考えたためだ。

結局、消費増税は、2回にわたり延期。実際に10%に引き上げられたのは2019年10月だったが、2013年秋に東京オリンピックの招致が決まったことで、東京のマンション価格は高騰していた。

夫の言い分としては、預貯金はないが、自分たち夫婦の収入は高いし、ローン金利も低水準。その上、職場の後輩などが、立て続けにマイホームを購入したことで、「あいつらが買えるんだったら、俺だって」と見栄っ張りな性格が影響し、突然、物件巡りをするようになったそうだ。

写真=iStock.com/Hanasaki
※写真はイメージです

夫の暴走を何としても止めたい妻を襲った、がん

しかし、蓉子さんとしては、夫の資金計画に不安があった。そもそも賃貸派で、借金も大嫌い。FPである筆者のところに相談に来たのも、夫の“暴走”を止めるために、お金のプロとしてのダメ出しがほしかったのだろう。

筆者はいくつかのシミュレーションを提示し、年収や家計の状況などから、「買えないことはないが、住宅ローンを組む場合、十分に返済できる額を見極めること。そのためにも、まずは夫の浪費体質を改善し、頭金を確保するために貯蓄を励むこと」などをアドバイスした。

相談には、蓉子さんがひとりで来たこともあり、筆者は面談中に思わずつぶやいてしまった。

「うーん、キャッシュフロー表では買っても大丈夫そうに見えますが、そもそも、リボ払いの借金が完済できないのに、もっと大きな住宅ローンを組む感覚はいかがなものでしょうねえ」

蓉子さんは「そうですよね。その通りだと思うんです」と激しく同意していた。

筆者としては、このしっかり者の奥さんがいれば、夫に住宅購入を断念するよう説得するか、頭金を貯めるまで計画を延期するか、とにかく無茶な計画は立てないだろうと考えていた。