GAFAの違いは「マネタイズ」という言葉に注目するとわかる

【楠木】ゲンロン戦記』を読むと、今日的な商売の意味を深く考えさせられます。私の専門は経営学のなかでも競争戦略です。1990年代後半からのインターネットをベースにした情報財のビジネスについても考察してきました。

いわゆるGAFA。「メガプラットフォーマー」とか一括りにして語られるのですが、それぞれの実際の商売の中身は相当に違います。何らかの価値を顧客に提供して、その対価を得る。つまるところ商売というのはそういうものなのですが、対価の取り方が異なる。「マネタイズ」という言葉に注目するとわかりやすいと思います。

撮影=西田香織

AppleとAmazonのアニュアルレポート(年次報告書)には「マネタイズ」という言葉はあまり出てきません。ユーザーから直接対価を受け取っているからです。稼ぐ力の中身を見ると、Appleはようするにハードウェアの会社であり、Amazonはようするに小売りと流通の会社。コストを上回る対価をユーザーから支払ってもらえるような「いいモノ」「いいサービス」を提供することによって儲ける。その実像はごく伝統的な商売です。

一方、GoogleとFacebookはアニュアルレポートに「マネタイズ」が頻繁に出てくる会社です。Facebookは登録してあるだけで僕はほとんど使っていませんが、Googleのサービスは日常生活の中でしばしば使っています。ユーザーではあるのですが、Googleにおカネを直接払ったことはありません。GoogleやFacebookにおカネを払っている本当の顧客は広告主です。ユーザーとカネを払う人が分離している。だから「マネタイズ」が必要になる。つまりは広告業です。

運に任せて「赤字を掘る」のは商業道徳に反している

【楠木】インターネットの時代になって、情報材を扱うB to Cの商売の実態は、ほとんどの場合、広告業もしくは販促業です。広告業の生命線はユーザーの数です。これはラジオやテレビの時代からまったく変わっていない。見ている人がたくさんいるほど、プラットフォームとしての価値が高まり、広告主を集めやすくなり、広告収入が得られます。どうしたらユーザーの数を集められるか。いちばん手っ取り早いのはタダにすることです。こうした成り行きで、「ネットの情報はタダ」が当たり前になりました。

とにかくスケールさせなければならない。しかし、ユーザーから直接カネは取れない。十分な規模に至るまでには時間がかかるので、情報サービスのスタートアップ企業の多くは、まずは「赤字を掘る」ことになる。それはそれで一つの手口なのですが、赤字を掘ったその先にきちんと商売が成り立つかどうか、長期利益につながる首尾一貫した戦略ストーリーがなければいけない。

筋の通った戦略もなく、集めた原資をひたすらプロモーションに投資し、漠然とした楽観にもたれて目先のユーザー数を伸ばすことにかまける会社が多いですね。広告で儲けようとしているのに、自分が広告費を払う側に回ってしまっている。揚げ句の果てに、一定のユーザーを集めたところでどこかに事業を売却して、手じまいにする――これを最初から目的としているフシがあるスタートアップも珍しくありません。

私に言わせれば、これは商業道徳に反しています。しかし、当人にその意識はない。それどころか、「先端的」なことをやっていて、称賛される価値があるとさえ思っている。ずいぶん規律が緩んでいると思いますね。