厚労省に「システム部門」の専門家がいない

なぜ、問題が長期に放置されたのか。

どうやら厚労省や政府の体制に問題の根源がある。まずは、厚労省にシステム開発の専門家がいないことだ。筆者はかつて厚労大臣の懇談会のメンバーを無報酬で引き受けたことがあるが、15回ほど開いた会合で、地方のメンバーがオンライン参加するのに一度としてまともにつながったことが無かった。その際、作業は業者がやってきて配線や運用を担当したが、つながらないオンライン会議に厚労省の職員はなす術がなかった。5年前のことだ。

今では世の中で広く当たり前に使われているオンライン会議ですらこの有り様だから、システム開発など「高度な」話になれば、業者にすべてお任せ、丸投げとなるのは想像に難くない。

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政府にはIT総合戦略室(IT室)というのがあって、民間人のCIO(内閣情報通信政策監)をトップに、民間のIT技術専門家を「政府CIO補佐官」として大量に任命している。現在「政府CIOポータル」というサイトに掲載されているだけで55人に上る。IT業界では名の知れた著名人が顔を揃えている。

そのほか、各省庁にも「府省CIO(情報化総括責任者)」が置かれ、その下に「CIO補佐官」がいる。もちろん厚労省にもCIOがいるが、歴代、ナンバー2の厚生労働審議官が兼務している。もちろん、厚労省幹部はITの専門知識はほとんどない官僚として上り詰めた人物だ。

政府に「IT室」はあるのに、連携が取れていない

政府CIO補佐官には人材がいるのだから、IT室に相談すれば良いのではないかと思うのだが、そこは霞が関の「縦割り」がそうはさせない。もちろん、文化の問題もあるが、それ以上に、予算は各省庁が持ち、システム開発にはそれぞれ出入りの業者がいる。もちろん入札をするのだが、そこは過去の実績がモノを言う仕組みで、だいたい「ITゼネコン」と呼ばれる大手通信・電機会社の独壇場になる。もちろん、実際にソフト開発するのはそうした「ITゼネコン」の下請け企業だ。まさに、かつての公共工事と同じ構図なのだ。それぞれの役所でそうした一種の利権が生まれているために、簡単にはIT室との連携は取れないのだ。

菅義偉首相が就任以来、「霞が関の縦割り打破」を掲げ「デジタル庁創設」を打ち出しているのは、こうした一種の利権構造が日本政府全体のデジタル化を遅らせているという危機感があるのは間違いない。

COCOAは有志の技術者たちが独自に開発に着手していたこともあり、ベンチャー企業に開発を任せることになった。報道によると、厚労省の新型コロナ感染者の情報管理をする「HER-SYS(ハーシス)」というシステムを委託していた「パーソルプロセス&テクノロジー」(本社・東京)に契約を追加する形で開発を委託。同社はIT企業「エムティーアイ」(本社・東京)に保守管理を再委託している、という。

厚労省にはシステムを使って「何がやりたいか」を伝えることぐらいはできても、システムの中身を吟味する専門能力を持った人物はほとんどいない。結局は業者任せになってしまったということだろう。