アップルが目指すのは「SF図鑑」に載るような自動車

人々が自動車をより必要とし始めた背景には、感染を避けた移動手段を確保したいという思いがある。それに加え、テレワークの浸透によって都市部から郊外へと住む場所を移す人が増えた。郊外での生活には、買い物や通勤などの移動手段として自動車の必要性が高まる。

世界的にテレワークが浸透し、ワンボックスカーを改造して移動オフィスとして使う人もいる。今後も多くの企業がテレワークを続ける。社会にとっての自動車の重要性はより高まるだろう。アップルはその点に着目し、自動車関連のプロジェクトを加速し、新しいテクノロジーの開発と実装を目指しているとの印象を持つ。

別の観点から考えると、アップルは未来の自動車のコンセプトを具体化し、自社のモビリティー(移動すること)の価値観を社会に示そうとしている。一つの見方として、アップルは未来の自動車の実現を目指しているといってもよい。

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昭和30~40年代、わが国では“SF図鑑”の中に人々が宇宙まで飛ぶことのできる自動車を使うイラストが描かれていた。アップルはそうした発想をはじめ新しい自動車のコンセプトを描き、その実現を目指そうとしていると考えられる。

自動車大国日本への影響は避けられない

アップルの自動車分野での取り組みがわが国の自動車産業に与えるインパクトは軽視できない。アップルは自動車の可能性を探り、世界各国の企業が思いつかなかったプロダクトを生み出すために、さまざまな形で試作車などの生産を目指すだろう。そのために、アップルはより多くの企業に自社の考える自動車の生産を求める可能性がある。

例えば、これまでデジタル家電などの受託生産を行ってきた企業が、アップルカーの受託生産を行い、自動車産業に進出する可能性がある。受託生産を行う企業にとって、アップルの取り組みはさらなる成長を目指すチャンスになり得る。世界の自動車産業を取り巻く環境変化のスピードは加速しているとみるべきだ。

EVに用いられる部品点数は1万点ほどだ。それに対して、ガソリン車にはエンジンを中心に3万点もの部品が使われる。EVの普及によって日独メーカーが強みを発揮してきたすり合わせ技術の優位性は低下する恐れがある。その一方で、自動車産業でもデジタル家電のようなユニット組み立て型の生産体制が広がり、水平、あるいは垂直分業が進む可能性がある。