「木村花さん事件」で匿名投稿者を特定して書類送検

SNSの浸透とともに、匿名を盾に言葉の暴力を振るい続ける“犯人”たちを野放しにしておくわけにはいかないという空気が急速に高まった。そこに、「コロナ中傷」の蔓延に対する不安と怒りが拍車をかけた。

政府や警察は「ネット中傷」対策に本腰を入れ始め、法令の整備に取り組み、犯罪として立件するケースも出てきた。

その契機となったのが、2020年5月に起きた「木村花さん事件」である。

フジテレビ系の番組「テラスハウス」に出演していた女子プロレスラーが、「生きてる価値あるのかね」「ねえねえ。いつ死ぬの?」といったSNSの膨大な匿名の中傷投稿に耐えかねて、自ら命を絶った。

写真=時事通信フォト
ネット上で誹謗中傷された後に亡くなった女子プロレスラー・木村花さん(当時22歳)の母親の木村響子さん=2020年8月6日、東京・永田町の自民党本部

事件後、中傷が書き込まれた投稿は大半がアカウントごと削除されたが、警視庁は半年余りかけて悪質な書き込みを復元して投稿者の1人を特定し、12月半ばに侮辱容疑で東京地検に書類送検した。ほかにも、約30件の悪質な投稿について今も捜査を進めているという。

総務省は電話番号を「発信者情報開示制度」の対象に改正

警視庁は、今回の立件により「ネット中傷」に厳しい姿勢で臨む方針を示したといえよう。匿名であっても、IT技術を駆使すればデータを追跡して“犯人”を特定できることを内外に知らしめた。

もっとも、全国の警察が「ネット中傷」による名誉毀損の容疑で摘発した事件は2019年で230件、侮辱容疑に至っては22件にとどまる。だが、こんな数字は、氷山の一角にすぎないことは誰の目にも明らかだ。

政府も重い腰を上げ、投稿者を特定しやすい仕組みをつくり、被害者が迅速に名誉回復や賠償請求ができるよう、制度改正に乗り出した。

総務省は8月、まずネット事業者に対し投稿者の情報を請求できる「発信者情報開示制度」の対象に、電話番号を追加するよう省令を改正した。電話番号がわかれば、弁護士を通じて、携帯電話会社に発信者の住所や氏名を照会することが可能になる。