もし、長年寄り添った老夫婦の愛を宝石化していたらどうなるだろう? 穏やかで曇りのない愛は、もしかするとほとんど磨く必要がないかもしれない……そんな想像も膨らませました。

物語に登場する「彼女」は、結晶化した愛が綺麗な宝石では無かったことに涙を流しますが、誰もが美しいと信じている愛もまた、時間と手間をかけて輝く時を待つ必要があるのではないでしょうか。

「別れ」「距離」が支持された理由とは

この物語のように、私の作品の中では以前から恋愛をテーマにしたものの人気が高かったのですが、2020年はその傾向に一つの大きな変化がありました。

実は、緊急事態宣言以降、「別れ」「距離」を題材にしたテーマにより多くリクエストやいいねをいただくようになったのです。

たとえば、2017年に募集した際は、少しファンタジー要素のあるキーワードが多く見られました。

しかし今年、募集をしてみたところ、全回答のうち20%が「遠距離恋愛」。ここまでキーワードが重複することはあまりありません。

神田澪『最後は会ってさよならをしよう』(KADOKAWA)

私はさまざまなメッセージを受け取る中で、外出を自粛して家族や恋人に会えない人々が「人と人との距離」をより強く実感するようになったことが理由の一つではないかと推測しています。

私の作品を評価してくださる方からは、「『終わっていく関係の中にも見える愛』『最後に触れる、相手の優しさや思いやり』に感動した」というお声をよくいただきます。

「コロナ別れ」「コロナ離婚」という言葉をよく目にするようになった昨今。かつてより「別れ」というものを身近に感じているからこそ、たとえ距離や価値観の違いが原因となってそれぞれ別の人生を歩むことになっても、願わくば最後まで2人の関係を大事にしたいと考える人が増えているのかもしれません。

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