「人生やり直しボタン」、もしあったら押しますか?

人生やり直しボタン
人生やり直しボタンが欲しいと思っていた。
生きていても毎日つらいことばかり。
だから本当にそのボタンが目の前の画面に表示された時、
僕はすぐに手を伸ばした。

指を置いた瞬間なぜか涙が出た。
本当に欲しかったのはボタンではない。
「そんなの押さないで。寂しいよ」と
僕の手を止める誰かだったのだ。

【解説】
一度や二度の失敗なら「過去整形」で修正できますが、全てが上手くいかず希望を持てないなら、根本的な解決策が必要になります。「人生やり直しボタン」はその名の通り、押すだけで人生をやり直せる恐ろしく便利なボタンです。

原稿用紙と万年筆と猫
提供=KADOKAWA

この物語を最初に思いついた時は具体的なオチを考えていませんでした。

もし自分の過去に振り返りたくない思い出ばかりが積み重なっていたら? そして将来にすら希望を見出せなかったら? 想像の中であらゆる不幸を吸収した私は、筆を進め、いよいよボタンを押せるとなった時に言いようのない寂しさに襲われました。

2回目の人生は今よりましになるかもしれない。けれど、ボタンを押す手を止める人が世界にたった一人でもいてくれたのなら、どんな暗い闇の中でも生きていけたかもしれないのに、と。

もし「人生やり直しボタン」があるとしたら、あなたなら押しますか?

反響が大きかった「愛」を問う物語

愛は宝石になる
愛は宝石になる。
想いが深いほど輝きを増すと評判で、贈り物の定番だった。
彼女と共に店へ来た僕は、緊張しながら宝石化した愛を受け取った。

出てきたのは、鈍く光るだけの小石。
彼女は目に涙を溜めて店を出た。
店員も困り顔だ。

「これから磨くところでしたのに。
愛そのものは、美しくありませんから」

【解説】
ダイヤモンドの原石を見たことはありますか? 無色のもの、黄色っぽいもの、見た目はさまざまですが総じて言えるのは、宝石の王様とも呼べるその圧倒的な透明感と輝きは、最初から備わっているわけではないということです。

選別され、精緻に磨き上げられ、ようやく輝きを放つ宝石となります。けれどそれを知らなければ、ダイヤモンドの原石を見てガッカリしてしまうかもしれません。そのさまは、愛が育まれる過程に似ているという気づきからこの物語が生まれました。

誰かを本気で愛した時、人は同時に自分の心に潜む醜い感情にも気付きます。「誰にも取られなくない」「自分だけを見てほしい」「返ってくる愛が足りない」……そんな不安と欲望でいっぱいになっている心に「愛」という名のラベルを貼っても、実物は荒く削り出された鉱物と同じ。