もし、1年前のように完全封鎖になったら…

むろん、大型マンションなので、いちいち覚えているわけではないし、陰性証明があれば正々堂々と入れるはず……なのだが、男性の顔を知っている近所の人もいるし、知らない住民も「帰省者」をどんな目で見るか、といった心配がある、と男性はいう。むろん、男性が現在住んでいる上海でも、1月下旬には十数人の感染者が出ており、上海でも、これから先、何があるか分からない。帰省先で問題なくても、上海に戻れない可能性もゼロではない。

というのは、ちょうど1年前の2020年の春節。男性は実家に帰ったのだが、帰省中に武漢でロックダウンが始まり、政府から、春節休暇の延長が発表された。男性は上海に戻ることができなくなり、そのまま実家に滞在。春節休暇が終わったあと、上海に戻ったが、会社からは2週間、自宅待機をするように言い渡された。

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勤務先に復帰できたのは春節から1カ月以上経ってからだった。幸い、そのときは実家がある都市も、上海も、コロナの大きな影響は受けなかったが、万が一、今回、実家があるマンションや、実家がある都市でコロナの感染者が急増した場合、実家に留め置かれるばかりか、実家のあるマンションからゲートの外に一歩も出られない可能性もある。

2人の陽性者のために2万4000人が自宅隔離

1年近く前の2月末、ロックダウン中の武漢に住む女性の記事でも書いたことがあるが、ロックダウンされた際、大型マンションは食料品の調達などの面で、管理人が一括で手配してくれたり、健康管理の相談に乗ってくれたりするというメリットがあるが、その反面、いざ感染者が出たら、その「小区」に住む数千人の住民全体の「連帯責任」となってしまうという恐怖心もある。

中国では、多くの人々は一軒家ではなくマンション住まいで、たいていのマンションでは住民がウィーチャット(中国のSNS)でつながっている。自分と自分の家族さえよければいい、というわけにはいかないのだ。そのため、男性の同僚の中には「考えた末、両親のことを思って帰省を断念した」人もいるそうだ。

帰省を断念した人の数は、もちろん統計に出ないので分からないが、男性の印象では「知人の3~4割くらいが、すでに断念した、あるいは断念する方向で検討中」だという。そのうち、高リスク地区である河北省など東北地方へはもちろん、北京に実家がある人も帰省を諦めたそうだ。

日本でも報道されたように、北京市も今年に入ってから感染者が急増。英国由来の変異株の感染者が2人出た地区では、たった2人の影響で、約2万4000人が2週間、有無を言わさず自宅隔離とされた。