「帰省どころか、家からも出られない」
筆者は、現在北京に住んでいて、上海に実家がある独身女性のことを思い出し、彼女に連絡を取ってみた。春節はどうするのか、と聞いてみると「もちろん、帰れませんよ。北京から、いえ、マンションからも、ほとんど外には出られないんじゃないかと思います」との答えが返ってきた。
春節休暇は暦通りに休めるそうだが、そこは首都であり、他の都市より政府の締めつけは厳しい。会社から「帰省禁止」「北京から別の都市への移動禁止」の通達があり、北京市内の自宅に引きこもることになりそうだという。政府が「就地過年」(そこで年を越そう)と呼びかけていることもあり、「やむを得ない」と話す。
「お正月、1人で何をする予定?」とたずねてみると、「たぶん、大みそかの前に大量の食材を買い込んで、ずっと家で寝ているかな……」との寂しそうな返事だった。会社の同僚の知り合いは1月に封鎖された北京市南部の地区に住んでいて、リモートで仕事をしていたと聞き、「自分にも危機が迫っていると感じました」と話していた。
全人代を前に政府からのプレッシャーがすさまじい
中国人にとって、春節は1年でいちばん重要なイベントだ。中国の大型連休といえば2月の春節と10月の国慶節の2つだが、春節は家族とともに「過年」(年を越す=正月を迎える)をすることが最も伝統的、かつ親孝行だとされている。
通常だったら、都会で働く子どもは、帰省のためのチケットが発売されると同時にチケットを購入し、両親と親戚のために、たくさんのお土産やお年玉を用意する。出稼ぎ労働者の場合、帰省時期が早く、故郷に1カ月以上も留まる場合もあるが、都市部の会社員などの場合は、暦通り、1週間ほど帰省することが一般的だ。
お正月期間中は、家族でごちそうを食べたり(お正月料理として全国的に有名なのは餃子だが、近年はそれ以外にも豪華な料理を食卓に並べる)、親戚の家に挨拶回りに行ったり、旧友に会ったりして、のんびり過ごす。
だが、今年は政府から「帰省自粛」という、異例の通達が出た。「自粛」なので、強制ではないものの、日本のゆるすぎる自粛と違って、中国の自粛は非常に厳しいものだ。政府は3月に重要な政治イベントである全人代(全国人民代表大会)を控えているだけに、この春節をいかにして乗り切るかに神経を尖らせている。
それが暗黙のプレッシャーとなって全国民に伝わっているだけに、「帰省するべきか、帰省せざるべきか」、多くの国民は大みそかまで頭を悩ませることになりそうだ。