IT技術の吸収を急ぐ中国の思惑
2020年4月にデフォルト(債務不履行)に陥った南米のエクアドルは、米国の金融支援と引き換えに5Gネットワークからのファーウェイ製品の排除を受け入れたようだ。その結果、ノキアやエリクソン、韓国のサムスン電子、わが国のNECや富士通には代替需要が発生している。英国政府などはNECや富士通に5Gに対応した通信インフラ整備への協力を求めた。
その状況が続けば、中国は半導体の自給率向上や5G通信機器市場での世界シェア獲得などを目指す“中国製造2025”の達成が遅れ、共産党政権の求心力は低下する可能性がある。その展開を回避するために、中国政府は海外からの技術移転を加速させている。
2019年の段階でEU商工会議所は、中国での技術の強制移転が増加していると報告した。その後、米中の対立が激化しファーウェイの業況が悪化したことを考えると、技術力に関する中国の危機感は一段と高まったはずだ。2020年末に中国がEUと包括的投資協定に大筋で合意した背景には、より迅速に製造技術を吸収したいという中国の思惑がある。つまり、中国の覇権強化に製造技術力の向上は欠かせない。
日本企業に活路はあるか
不透明な部分はあるものの、米中が製造技術をめぐって対立する状況は、基本的にはわが国経済にとってチャンスだ。わが国には簡単には模倣できない製造技術がある。最先端の5ナノ(10億分の1)メートルの回路線幅の半導体生産に欠かせない感光材市場でわが国企業のシェアは高い。また、セラミック、塩化ビニール樹脂などの素材や、精緻なすり合わせ技術が要求される工作機械などの分野でもわが国の技術力は高い。
ある意味、新型コロナウイルスの感染症発生は、安心と安全を支える製造技術の重要性を世界各国が確認する機会になった。例えば、通信インフラは水道や電力と同等に重要であることがはっきりした。英国がわが国企業に通信インフラ整備への協力を求めたのは、わが国企業の技術が信頼できるからだ。
逆に、製品が分解されて技術が模倣されると、企業の競争力は低下し、経済全体の活力も下がる。韓国企業はメモリ半導体やスマホなどの分野で中国企業に追い上げられている。政府の支援によってコスト負担が低い中国企業との価格競争に韓国勢が対応することは難しい。企業の競争力低下は、その国の発言力にも影響する。