「また、販売分野にTPSを導入する流通情報改善部もTPS本部の傘下に組み入れ、生産、物流、販売、サービスまで一貫してTPSを展開する体制を作りました。2020年からは人事、総務といった事技系職場にもTPSを入れる事技系TPS自主研活動に着手しました。

異常を見つける、異常があれば躊躇なく止める。生産でも事技系でも現場が自立的に、異常があったらラインを止めていい、そして、パイプラインの在庫は膨らましちゃいけない。仕事を止めたことは後で報告すればいい。それをどうやって挽回するかというのは後で考えればいい……。

今は事技系の仕事も、異常があったら、アンドンのひもを引いて止めていいんだと思うようになってきました。関係者が集まって、なぜ遅れたんだ、なぜ異常があったんだということを職場で明らかにする雰囲気が醸成されつつある」

日ごろのムダをなくすことから始まる

日本の社会は「組織が決めたこと」をなかなか変えることができない。時代や環境が変わって、あきらかに不合理と思われることでも、止めたり、変えるのは至難の業だ。

さまざまな書類事務におけるハンコの存在がそうだった。新型コロナ危機が起こり、ハンコを押すためだけに出社するという人間が大勢出てきたため、やっとハンコがなくなりつつある。危機が来ない限り、組織のカルチャー、人間の日常行動はなかなか変わらない。

野地秩嘉『トヨタの危機管理 どんな時代でも「黒字化」できる底力』(プレジデント社)

いい機会だから、危機に陥ったら、何かを変えるべきだ。「昔からやっていること」「かつて、みんなで決めたこと」を疑って、不合理だと判断したらやめる。事態を止めないのは組織が老いているからだ。サムスンをグルーバル企業にした李健煕イ・ゴンヒは、1993年、ドイツ・フランクフルトで「みんな変わろう。妻と子以外はすべて変えよう」と演説し、新しい経営方針を示した。

成長しようと思うのなら、それくらい変わらなければならない。

トヨタが異常を顕在化し、つねに職場を見直しているのは組織の老化を防いでいることでもある。

危機管理は老化した組織にはできない。言い換えれば組織の老化、個人の老化を防ぐことは危機管理の第一歩でもある。いらない規則や取り決め、ムダに多い幹部の役職、やたらとハンコが並んだ稟議書……、こういうものはすべてバッサリと切る。

危機管理を言い立てる前に日ごろのムダをなくすことだ。

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