「現場は目の前のものをいいものにしてたくさん作る、生産性を上げる。1円でも安く作る方法を考える。変化に耐えるとはそういうことだ。僕はこの競争力の意識がなくなったら、トヨタはただの会社になると思っとる」
自動化してからが本領発揮
確かにトヨタの生産現場は他社とは違う。トヨタの自動化ラインは、一度自動化したら終わりではない。例えば、3台のロボットを入れ、自動化しても徹底的にムダをなくす。改善して、3台のロボットが2台にならないかを考える。2台になったら次は1台にならないかとまた改善する。そして生産増になったら3台のロボットで生産性を倍に上げる工夫をしようと考える。
つねに進化させ続けるのがトヨタだ。組み立てラインも月の生産量に合わせ、タクトを変更するし、ラインそのものを伸び縮みできるようにしている。そして、自動化ラインをシンプル・スリム・フレキシブルにするための生産技術革新を続けるのが日々の日課になっている。
組み立てラインでは作業者がアンドンのひもを引き、ラインを停止させたら管理職は直ちに確認して、同時に保全マンがかけつけて、再起動させる。再発防止はその後の段階だ。そして、バックアップ工程(手作業)に切り替え、ラインを起動させる。
トヨタの現場には河合の目が光っている。平時から変化に柔軟に対応することで危機管理能力が養っている。
部品をつなぐ「調達マップ」の重要性
新型コロナ危機では中国の工場、協力工場が最初に止まった。その時点で調達、生産調査部はすぐに調達マップを見て部品をつなぐことを始め、手を打つことができた。だが、近年、頻発する異常気象、自然災害ではいつどこが止まるかがわからない。
調達マップを整備してはあるのだが、それでも、不断の努力でそれを最新にしておかなくてはならない。
ただし、言うは易し、だ。
世界中にある数万社以上の協力工場が何を作っていて、何個、どこに納めているかを調べていたら、それこそいくら人手があっても足りない。この調達マップの整備と更新は製造業の危機管理では重要な点だけれど、同時に、いかに簡単に、いかに時間と人数をかけずに行うかが問われる。
「完成することはない」
河合も「そうだ」とうなずく。
「サプライヤーさんは一次、二次、三次、四次まである。今は完璧なマップですと言われても、僕はそんなわけはないといつも言うんだ。実際にあったことだけれど、ある部品は2社が作っているはずだったのが、元の元までたどってみたら、実は1社だけだったなんてことはあるんだよ。そうしたら、そこが被災したら、車は作れない。最後までたどって、複数のルートを作らないといけない。
調達マップの整備、新しくすること。これは危機管理の道案内マップみたいなものだ。それを見ながら、支援に行ったり、部品をつなぐわけだから」