「起業したい人」の育成は社会に対する最大の貢献になる

【田中】今日は中核としてはデジタルの話、金融の話をお伺いしたいと思いますが、まずは私自身も一緒に教鞭をとらせていただいている、SBI大学院大学についてお伺いしたいと思います。

2008年の4月設立ということで、オンライン大学としては本当に日本の先駆者でいらっしゃいます。今年はコロナ禍で、大学や高校でも一気にオンライン授業が始まりましたが、すでに2008年4月から、オンラインMBAを展開されていらっしゃいました。その始められた思い、当然安岡正篤先生(※)のように学校を作られる、君子(人格者)を作るなど、いろんな思いがあったと思います。

2008年4月に、当時では考えられなかったオンラインでMBAを作られた、その時の哲学・こだわりというのはどういうところにあったのでしょうか?

※安岡 正篤:陽明学者・哲学者・思想家。歴代総理など多くの政治家や財界人の精神的指導者であり、かつ「人間学」の偉人としても知られる。

【北尾】まず、自分で起業したいと思うような人を対象にしたいと思いました。なぜそう思ったかというと、起業するということはイコールいずれ人を雇い、トップとして雇った人を色々な形で感化していく。そして一燈照隅万燈照国(※)に繋がるようにしたいなと思ったのです。

※一燈照隅万燈照国(いっとうしょうぐう ばんとうしょうこく):一つの灯火だけでは隅しか照らせないが、その灯火が万という数になると国中を照らすことができるという意味の語。最澄が説いた言葉として知られている。

経営者に必要なのは「人間学」だ

【北尾】言うまでもなく、経営者というのは影響力がかなり大きい存在です。そこに働く従業員、取引先、そしてお客様に対し、自分の志を広く世に伝播させ、世の中のためになることをしていく。併せて、人の指導者になるということですよね、起業家になるということは。

ですから単に時務学(※)と称される学問、いわゆる経営学や、法律の知識だけではなく、人間学が必要だと思ったのです。私は究極、人を動かすのは何かというと、人間力ではないかと思うのです。ですから、そういう人間力を醸成するような教育観は世界広しといえどもなかなかないなと思いました。

※時務学:知識・技能を養う学問のこと

併せて、大学を卒業した人のための大学院という形に位置付けず、大学院大学という非常に珍しい形態で作りました。例えば高校を卒業して社会で揉まれ、勉強し、そして一定の学力、あるいは見識を備えたら、ここに入れるようにしようと。高卒の人でも、ここを卒業できたら文科省認可のMBAが取れて、大学院を卒業したという立場になれるようにしたいと。そんな様々な思いの中で作ったのです。そして、働く人を対象にしていますから、オンラインでないと無理だと思いました。