環境重視、分配重視、反戦重視といった理想主義路線か

SPDと「同盟90/緑の党」は、シュレーダー首相時代の1998年から2005年にかけて連立を組んだ経験がある。このときの「赤緑連合」は、経済成長や国際協調を重視する現実路線のSPDと環境対策や反戦を掲げる理想主義的な「同盟90/緑の党」との間で軋轢が生じて、必ずしも順風満帆とはいえなかった。

仮に9月の総選挙でSPDと「同盟90/緑の党」がタッグを組み、赤緑連合政権ができた場合、イニシアチブを取るのは支持率で勝る「同盟90/緑の党」だろう。政党として成熟し現実路線を強めつつある「同盟90/緑の党」とはいえ、CDU/CSUとの違いを鮮明にするため環境重視、分配重視、反戦重視といった理想主義路線を強めるかもしれない。

洋の東西を問わず、理念が先走り過ぎた政治は現実との間で軋轢を生む。新党首の下で挙党一致体制を作り上げることができたCDUが引き続きドイツで政権を担うなら、現実的な政治運営が望める。一方で9月の総選挙で「緑赤連合」政権が成立すれば、ドイツの政治は不安定さを高めると予想される。

CDUの党首選は、EUの安定を大きく左右する

ドイツ政治の不安定は、ひいては欧州連合(EU)の不安定につながる。EUの二大国であるドイツとフランスの関係は、メルケル独首相とマクロン仏大統領との間で非常に良好であった。CDUが新党首の下で挙党一致体制を作り上げ、政権を引き続き担うことができれば、両国の関係は引き続き良好だろう。

しかしドイツ政治が不安定化すれば独仏関係にも秋風が吹きかねず、EUの運営にも悪影響が出る。またフランスも2022年に大統領選と総選挙を控えている。新型コロナウイルスの感染対策で支持率が持ち直したマクロン大統領だが、ライバルである極右マリーヌ・ル・ペン氏の人気も根強く、無事2期目を迎えることができるか定かではない。

ドイツでCDUが引き続き政権を担えず、さらにフランスでマクロン大統領が敗北すれば、良好だった独仏関係にひびが入る恐れが大きい。2021年1月のCDUの党首選の行方は、9月のドイツ総選挙の結果を、ひいてはEUの安定を大きく左右することになる。2021年はドイツ政治の行方に注視したい。

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