文系の研究者はもっと大学の外と触れたほうがいい

【東】この10年、大学とか出版のなかにいたときとはぜんぜん違う人たちと出会っていろんな経験を積んだことによって、いまぼくは想像できる読者の広がりがぜんぜん変わっている。だから文章も書ける。そうじゃなかったら、大学とか批評が好きな人たちだけ相手にしてる文章なんてパターンが限られてるし、それこそ書かなくなったと思うんですよ。

だからぼくからすると、いまの大学の先生たち、特に文系の大学の人たちっていうのは、もっと大学の外と触れたほうがいいと思うんですよね。そうじゃないとすぐ行き詰まってやることがなくなっちゃう。

——いま順調に啓蒙はできてると思いますよ。あきらかに東さんのことを知らなかった人が東さんのしゃべりを聴いて人に興味を持ってっていう段階は間違いなくクリアできてて、それで本を読んでみる人がいるから、この本も売れてるんだと思います。

【東】それはうれしいことです。

撮影=西田香織

——久田(将義)さんみたいな真逆な人と絡むことで。

【東】久田さん、ぼくとまったくちがうひとだからね。話も、いつも合ってるんだか合ってないんだかわかんない(笑)。

——それなのに酔っ払って5時間とか平気で話すじゃないですか。あれをやればアウトローにしか興味ない人にも引っ掛かるんですよ。

【東】ぼくはなぜか昔から妙にアウトローの人たちに好かれるという特徴があって、「君はインテリだけど男の心がわかってるね」みたいな雰囲気になりがちなんです(笑)。

現実の人間社会では「人間力」が決定的に大事

【編集部】書籍の冒頭に「ゲンロンは、学会や人文界の常識には囚われない、領域横断的な『知のプラットフォーム』の構築を目指しています」と書かれています。学会や人文界、さらに出版業界も「話すこと」を軽んじるのが常識になっていたと感じます。

【東】人間社会って誰がしゃべるかっていうことがすごく大事なんですよね。自然科学の世界では誰がしゃべるかってことは関係ない。事実は事実。でもそれは人間社会を相手にするときは通用しない。それなのに、要は文系の理系コンプレックスというか、理系的な考え方でやるのがすべて正しいっていう素朴な思想が文系にも入り込んでるよ。

だから「人間力で突破」というと、まったく知的なことではないように聞こえる。知的なことは誰がしゃべっても関係ない、事実は事実であり真実は真実なんだ、とみんなが思い込んでる。だけど、現実の人間社会はそう動いてないんですよ。人間社会を動かす知のあり方をリアルに考えたら、やはり誰がしゃべるかみたいな、人間力みたいなところが決定的に大事なんですよね。

——結局は人の問題だってことですね。