「文系の学者はいらない」といわれる意味を考えたほうがいい

【東】たとえば今回の日本学術会議の問題でもぼくが一番ショックを受けたのは、世の中が文系の学者をこんなに軽視しているということに対してですよ。日本学術会議であの6名が任命拒否されたことに対して世論は非常に冷淡だった。それに対しても文系の学者は怒っている。でもぼくは、怒るのはわかるんだけど怒ってる場合でもないぞ、と考える。こんなに冷淡だということの意味を少し考えたほうがいいんじゃないかなと。

ネットでも「文系の学者いらなくね?」みたいなことをバンバン書かれてて、世論調査でも「日本学術会議の組織見直しについて賛成」が7割とかになってる(※)。これはもう、文系の学問全体に対する社会的な信用が地に落ちていて、単に税金で飯食ってうるさい社会運動やってるヤツぐらいにしか思われてないんですよ。それこそ「現実」なんですよね。だからこそ、人間力を持った大学人が求められる。

※編註:JNN世論調査(2020年11月7日、8日)では、日本学術会議の組織見直しについて「賛成」が66%、「反対」が14%、「答えない・わからない」が20%だった。

東浩紀さん
撮影=西田香織

——すごい大ざっぱなこと言ってるような気もしますけど、まあわかります(笑)。

【東】また叩かれるんだろうなあ。

——たとえば久田さんなんて人間力のかたまりじゃないですか。

【東】そうですね。

学者の人たちは「東はどうしたんだ?」と無視するはず

——ジャンル関係なく、結局はそこですよね。今回の本は語りおろしですけど、ふつうに書いた本より評価が下がったりするんですかね。

【東】評価も何も、今回は学者の人たちは「東はどうしたんだ?」って感じで無視だと思います。ぼくだって、他人がこんな本を出したらそう思いますよ。「どうしたんだ? まず顔が表紙じゃないか、おかしいだろ」と。

——その客観性はあるんですね(笑)。

【東】あるある。いちおう言っておくと、ぼくは反対したんですよ。でも編集部が「いいんだ、これなんだ」と。帯の「三国志のように面白い」ってフレーズもやめたほうがいいんじゃないかって言ったんだけど、「いや、『三国志』とか出すと中央公論の読者の心には響くんだ」と。でも、そもそも誰も言ってないじゃん。「『涙なしでは読めない』と称賛の声続々!」って、届いてないですよ、これ!

——そもそも出版前ですもんね(笑)。

【東】そう! 届くわけがない(笑)。

——ゲラを読んだ人が言ったんじゃないですか?

【東】そうじゃないんですよ! じつは、これ、ぼくが『ゲンロン戦記』出るよとニコ生やったときのコメントの声です。だから彼らも読んでない。とにかく、そういう帯だからぼくが読者だったらギョッとしますよ、「なんじゃこりゃ?」と。でも開くと意外とまともなところも言ってるんで、できれば広く手にとって欲しいと思ってるんですけどね。

——自分ならやらないことに乗っかるのも重要ですよね。

【東】そうそう、今回は乗っかりました。