しかし、テレビに出演するタレントのプライベートが倫理に反する場合には芸能マスコミはそれを暴く権利があるのだろうか。そんなことを言うと「いまさら何を」と言われそうだし、私自身もワイドショーの制作にも携わってきたので、むしろ芸能マスコミの側の人間であるとも言えるのだが、実はそこには政治家など明らかな公人のスキャンダルほど明確に「報道していい」と言い切れるほどの大義名分は存在しない。
会見という社会的制裁の場がテレビ復帰の条件になる
有名人のスキャンダルだからそれなりに社会的関心事であることは間違いないから、たとえそれが違法行為ではないとしても記事にすることはなんとなく許容範囲とされている。そうやって「倫理違反」を暴かれた芸能人は、スポンサーや視聴者から信頼を失うことによってテレビに出られなくなる。
これはいわゆる「好感度」の問題だ。「そんなことをしていたのか」というので人々は怒り、あきれ、その芸能人を拒絶する。そうするとスキャンダルを起こした芸能人は一定期間自粛したり、芸能界を引退したりすることになる場合が多い。
ここまでは良いとして、難しいのは「ではどんな条件で許されるのか」ということだ。これについてはよく「このままではテレビ復帰は許されない」という言い方がされるが、では誰がどのような基準で復帰を決めているのかというと、テレビ業界の内部にいる私にもさっぱり分からない。たぶん「許される条件」などというものは初めから存在しないというのが真実だと思う。それは非常に曖昧なものなのだ。
以前私は司法記者として裁判の記事を書いていたことがあるが、よく判決の中で「社会的制裁をすでに受けている」という言葉が出てくる。量刑などが減らされるときによく使われる言葉だ。たぶんイメージとしてはこの「社会的制裁をすでに受けた状態」が、テレビ復帰を許される条件に近いのではないだろうか。
すでに自粛し、謝罪してもテレビが許さないワケ
普通に考えると、「芸能人が一定期間仕事を自粛すること」はこの「社会的制裁をすでに受けた状態」になるのではないかと私は思う。「不倫をした芸能人が約半年間仕事を自粛した」というのは結構社会的制裁を受けたことになるのではないだろうか。たとえこれで仕事を再開したとしても、イメージが低下したことは間違いないわけで、これまでのようには仕事のオファーは来るはずもない。今後もかなりの苦戦が予想されるわけで、そういった意味でも社会的制裁は十分に受けているということになるのではないか。