現代のグローバル化についても同じことがいえます。1930年代には世界恐慌後に関税引き上げ競争が起き、経済のブロック化が進んだことで、破滅的な第二次世界大戦が起きました。戦後は、そのような反省を踏まえて、アメリカが中心となってGATT(関税及び貿易に関する一般協定)を制定し、貿易に関するルールを定めるとともに、締約国が集まって多角的貿易交渉を実施して関税を引き下げていきました。

戸堂康之『なぜ「よそ者」とつながることが最強なのか』(プレジデント社)

GATTは1995年にWTO(世界貿易機関)に引き継がれて、モノの貿易だけではなく、金融などのサービスの貿易や知的財産権に関する国際ルールを主導して、自由な国際貿易や投資を支えてきました。しかし、WTOのドーハ・ラウンドは2001年の立ち上げ以来、先進国と途上国の対立などにより合意できないままで、十分に機能していません。

ですから、近年では新しい貿易投資のルールは、WTOではなく、CPTPP(アメリカ離脱後のTPP)、日米貿易協定・日米デジタル貿易協定など、多国間や二国間の自由貿易協定(FTA)で決められることも増えてきました。

今後、世界では広域のFTAの交渉がさらに進展することが期待されています。

教育や社会経験によってオープンな作法を身に付ける

人間の閉鎖的な本能を抑えるには、こうした制度づくりのほかに、心理学的、行動経済学的なアプローチも有効です。西南学院大学の山村英司らの最近の行動経済学的な研究は、教育や社会経験によって閉鎖性を抑えることができることを示しています。

山村らは、日本人1万人に対する調査を基に、TPPを支持する人はどういう人かを調べました。すると、小学校で団体スポーツやコミュニティ活動、グループ学習、運動会の徒競走を経験した人は、TPPを支持する傾向にあることがわかりました。また、このような人々は、グループ活動や競争、相互に助けあう関係に対する評価が高く、他人に対する信頼感が強くて、いわゆる非認知能力が高かったのです。

つまり山村らの研究は、幼少期にさまざまな社会交流を通じて他者と関わることで、他者を信頼し、よそ者をも許容できるオープンな人間に育ち、長じてはグローバル化の恩恵を正しく評価できるようになることを示しているのです。

コロナ感染で、国際交流をはじめとする様々な社会交流が止まっています。この状況では、各国で排他性が増幅して、ますます世界の分断が進行しかねません。コロナ禍で分断が進んでいる今こそ、オンラインやコロナに対処した上での対面での社会交流を活発にしていくことが不可欠です。

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