いい換えるならば、いい上司とは部下のキャリアアップのシナリオを描く脚本家であり、演出家なのだ。人材育成というと、ついマニュアルに頼ってしまう。しかし、社員はそれぞれ異なる環境で育ち、それぞれに個性があるわけで、オーダーメードで育てなければならない。社員の様子を観察し、時には臨機応変に、脚本や演出プランを書き換えることも必要だろう。そうするためには、高いコミュニケーション能力も上司に求められる。
与える仕事の内容や難度は、おおむね年数に応じたものでいいだろう。仕事を1年こなせば、1年分のキャリアはついていると思うからだ。そして、その経験に応じて価値が高まる。また、バランスシート上の数字には表れないものの、会社の“目に見えない財産”は着実に大きくなっていく。
成果主義を導入している企業が多いが、私は年功序列で構わないと考えている。組織には「和」が必要不可欠であり、中途半端な成果主義で人間関係がぎくしゃくするようでは本末転倒だからだ。
さらに、優れた人材を定着させ、かつ社員のモチベーションを高めるには、賞罰も必要だ。その賞罰には、誰もが納得する公平性が問われる。自分の機嫌や好みで評価する暗君でいるようでは、社員の定着など夢のまた夢に終わるだろう。
と同時に、社員1人1人に対して恩情を持って接する。家族が病気のときには気持ちよく休みを与えたり、仕事が辛そうなときには負担を減らす。そうした気遣いは、「君をしっかり見ているよ。なぜなら、必要な人材だと思っているからだ」というメッセージにもなる。