人口300万人に満たない小国のアルメニアは、「アルメニアディアスポラ」と呼ばれる、自国を飛び出して世界中に分散して住んでいる人々が多い。こうした傾向はユダヤ系の人々にもみられる。アルメニア系アメリカ人は各地にあるアルメニアディアスポラの中でも「最も政治的影響力が強い」とされ、メディア企業にも深く浸透している疑念がある。
背景には「イスラム社会への潜在的な恐怖」
実際に、欧州2社とNHKの報道内容を拾ってみると、アゼルバイジャン軍がイラン国境沿いに猛攻を繰り広げ、次々と領土を奪還していたさなかの出来事は全くと言っていいほど報じられていないことが分かる。
紛争につきもののプロパガンダ合戦が続く局面で、「ナゴルノ・カラバフでアルメニアの敗色が濃い」という「事実」を報じないことは、メディア各社に入り込んでいるアルメニアディアスポラたちへの「忖度」ゆえ、記事化が避けられたのか。
こうした状況について、北海道大学で教鞭をとっており、領土問題に詳しい在日アゼルバイジャン人のアリベイ・マムマドフ氏は「欧米各国には、潜在的にアゼルバイジャンやトルコといったイスラム社会に対しての恐怖感がある」とした上で、「各国で活動するアルメニアディアスポラの力は強く、メディアをコントロールしていることは疑いない」と指摘。アメリカだけでなく、ロシアやフランス、カナダ、オランダでもこうしたディアスポラたちの活動が活発だと分析している。
こうした背景もあって、今回の紛争報道ではさまざまな「アルメニア側に同情感を持たせるニュース」が優先される傾向が強かった。
ディアスポラはなぜここまで関与するのか
アルメニア系住民は19世紀末から20世紀初頭に、オスマン帝国の少数民族であったことから、強制移住、虐殺などにより死亡した歴史を抱える。そうした背景からアルメニア系の人々にとって、アゼルバイジャンなどのテュルク系民族は絶対的な敵対勢力として相容れない存在だ。アルメニアロビーが海外で積極的に活動しているのは、虐殺からの名誉回復を訴えるためという大義がある。
今回の紛争をめぐってはこうしたディアスポラ、つまり在外アルメニア系の人々が足を引っ張った、という見方もある。海外でお金を作っているディアスポラたちの発言力は小さくなく、母国政府は彼らの期待に応えるためにも乏しい戦力でアゼルバイジャンに相対するしかなかった事情もあるようだ。
ただ、アルメニアディアスポラの多くはアルメニア本国に行ったことがないという。「戦いの現場を知らないディアスポラが後押しするばかりに、アルメニアの多くの若者が無駄死にしたかもしれない(アリベイ氏)」。