領土をめぐり激しい戦闘が続いていたアゼルバイジャンとアルメニアの紛争は、4度目の停戦合意でようやく決着した。だが、詳しい戦況はほとんど報じられなかった。ジャーナリストのさかいもとみ氏は「背景には、在外アルメニア人によるメディアへの強いロビー活動がある」と指摘する——。
アルメニアの首都エレバンで、ナゴルノ・カラバフ地域へ向かうバスを待つ難民ら(2020年11月17日)
写真=AFP/時事通信フォト
アルメニアの首都エレバンで、ナゴルノ・カラバフ地域へ向かうバスを待つ難民ら(2020年11月17日)

領土問題から本土への攻撃に発展

9月27日に衝突の火蓋が切って落とされた、アゼルバイジャンとアルメニアによる旧ソ連の係争地ナゴルノ・カラバフをめぐる戦闘。6週間余りにわたる闘いは、11月10日にロシアの仲介で結ばれた停戦合意により、ひとまず決着を迎えた。

この紛争は、アゼルバイジャン領として国際的に認められている同国南西部のナゴルノ・カラバフ地方に、アルメニア系住民が一方的に独立を宣言し、30年近くの間にとどまり続けたことが発端となっている。

今回の紛争では、ナゴルノ・カラバフ地方そのものでの衝突だけでなく、アルメニアがアゼルバイジャンの主要都市へのミサイル攻撃をしかける図式で進展。3度にわたり停戦合意が行われたにもかかわらず、互いが違反を繰り返す泥沼の様相を呈していた。

メディアが隠したアゼルバイジャンの勝報

イスラエル製ドローンをはじめとする先進的な兵器を使って攻め続けたアゼルバイジャンが、戦意は高いものの時代遅れの装備で相対したアルメニアを圧倒。ついにはナゴルノ・カラバフの中心都市シュシャをアゼルバイジャンが奪還し、アルメニアが白旗を上げるタイミングで、すかさずロシアが停戦に向けた合意形成のための仲介に乗り出した。

ところが、今回の紛争をめぐる欧米の報道姿勢を改めて見直すと、「連日のアゼルバイジャンによる領土奪還、アルメニアの敗走」について、大手メディアが「報じない自由」を選択する異常な事態が起きていた。戦闘は泥沼化していたはずがその多くは報じられず、「アゼルバイジャンの勝利目前」という紛争の決着直前という状況になってようやく世界に向けて「事実」が発信されたのだ。

ここまでして隠し通された事情はなんだったのか。こうした「忖度」が行われてきた背景について分析してみたい。

アルメニア人の強力なロビー活動が行われていた

停戦合意が整った6日後の11月16日、NHKは旧ソ連地域に詳しい石川一洋解説委員による「停戦成立後の両国に平和が訪れるか」という趣旨の論評を紹介したが、その中に気になるフレーズがあった。

・大統領選挙での勝利を宣言した民主党のバイデン氏はアルメニアに同情的で、アメリカの積極的な関与による停戦を訴えている。
・在米アルメニア人の“アルメニアロビー”は民主党の地盤のカリフォルニア州を中心に強力で、「(同じテュルク系民族の)トルコとアゼルバイジャンに制裁を」と要求している。

ここに出てくるアルメニアロビーとは何なのだろうか。