世界中の権益保護

専門家によると、中国政府にとって上陸部隊増強は、台湾への上陸、あるいは同国が戦略的に重視する地域や係争地域を占拠する上での力にもなる。習氏は、かつての強大な国家を復活させるという人民の悲願を実現するためには、台湾統一が重要な一歩になるとの考えを隠そうとしていない。昨年初めの台湾向けの演説でも、台湾への軍事力行使を否定せず、統一のため「あらゆる必要な選択肢を留保する」と主張した。

ただ専門家の話では、解放軍は既に陸軍内に台湾侵攻に不可欠な上陸作戦の訓練を受け、装備を持った強力な部隊が存在する。だから新たな上陸部隊はむしろ、中国が保有する幅広い海外資産に関係する世界各地で、作戦を展開することが視野に入っているのだという。

実際、中国が巨大経済圏構想「一帯一路」を提唱していることで、こうした海外権益は今後増大する公算が大きい。

中国と西側の軍事評論家に基づくと、中国版海兵隊は、南シナ海で領有権を争っている島しょに築いた拠点を含め、習氏が世界各地に戦略的な軍事基地ネットワークを確立しようとしているという面でも、大事な意味を持ってくる。

米国防総省のリポートは、こうした路線に沿う形で中国版海兵隊が、アフリカの角と呼ばれるジブチに設置した中国初の海外基地に装甲車両とともに派遣されたことを示す。アデン湾での海賊取り締まりに中国が送り込んだ小艦隊にも、海兵隊が加わっていたという。

米シンクタンクのプロジェクト2049研究所のシニアディレクター、イアン・イーストン氏は「今後10年で、中国は世界全土に海兵隊の拠点を置くのはほぼ間違いない。中国共産党の野望とその権益は世界的に広がっている。世界的な戦略上の権益の面で必要とされる場所ならどこにでも、部隊を送り込むつもりだ」と指摘した。

戦闘行為とは別に、海兵隊を強力な外交上の、あるいは威圧的な手段として駆使するというやり方はこれまで、米国の独擅場だった。米国は定期的に専門部隊を他国に寄港させたり、合同演習や災害救助などに派遣。海兵隊を収容する小艦隊と重装備、航空支援という組み合わせは、米国の力を各国に思い起こさせる役割を果たしている。こうしたやり方を中国もまねるようになる、と専門家は予想する。

実力差

米国防情報局はリポートで、中国版海兵隊が現在7つの旅団に分かれ、機甲部隊や歩兵部隊、ミサイル部隊、砲兵部隊などで構成されており、南シナ海で領有権問題を抱える国々の中でも最も強力だと解説。係争地の1つ、南沙(スプラトリー)諸島で同時に複数の島を制圧できるし、別の係争地の西沙(パラセル)諸島の拠点を急速に強化できるとの見方を示した。中国版海兵隊は、尖閣諸島(中国名:釣魚島)など他の係争地を占拠する場合にも有効だとみられている。

とはいえ、米国防総省や他の西側軍事専門家に言わせれば、18万6000人の兵力を抱え、水陸両用作戦や上陸作戦の豊富な経験を持つ米海兵隊と比べれば、実力的にはなお到底及ばない。米国防総省は昨年のリポートで、中国版海兵隊はまだ人的な面と装備の面で、完全な作戦能力はないと分析し、十分な装甲車両とヘリコプターが欠けているだけでなく、複雑な作戦を遂行する訓練が足りないとしている。

(記者:David Lague, Reuters.)

当記事は「トムソン・ロイター」からの転載記事です。
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