[香港 7月20日 ロイター]中国が1990年代半ばに軍事力拡大に乗り出した時点で、最優先目標に掲げていたのは、本土沿岸に接近する米軍を徹底的にたたく戦力を整えることだった。だが今や、人民解放軍は世界各地で米国の力に挑戦するための準備を進めつつある。
急拡大する中国「海兵隊」、権益確保へ世界展開(オリジナル記事:2020年7月24日配信)
中国の人民解放軍は、世界各地で米国の力に挑戦するための準備を進めつつある。新彊ウイグル自治区バインゴリン・モンゴル自治州の基地で訓練する中国版「海兵隊」。2016年1月
撮影=China Stringer Network/ロイター
中国の人民解放軍は、世界各地で米国の力に挑戦するための準備を進めつつある。新彊ウイグル自治区バインゴリン・モンゴル自治州の基地で訓練する中国版「海兵隊」。2016年1月

中国は既に、米海兵隊のように敵前上陸を敢行して先制攻撃を行う部隊の拡充に乗り出し、この「中国版海兵隊」を生かすための初の強襲揚陸艦075型を2隻進水させている。中国版海兵隊はやはり米海兵隊同様に、本土から離れた地域で単独作戦を遂行したり、中国の軍事力を諸国に誇示したりする役割を担うことができる。

排水量4万トンの075型は小型空母のようなもので、最大900人の部隊を収容し、重装備品や上陸用の舟艇を搭載するスペースを備えると、衛星映像や写真を分析した西側専門家は分析する。今のところヘリコプター30機を搭載するが、将来的に中国が米軍のF35Bに似た垂直離着陸機を製造できれば、戦闘機を搭載する可能性もある。

中国軍事当局の公式報道によると、最終的に海軍は075型を7隻ないしそれ以上配備する可能性がある。

「海兵隊」兵力3年で3倍か

安全保障面で米中の対立は先鋭化の一途をたどっている。前週にはポンペオ米国務長官が「中国による南シナ海ほぼ全域の海洋資源権益の主張は完全に違法だ」と非難する声明を公表。南シナ海で中国に領海や海洋権益を侵害されていると主張する東南アジア諸国を米国が支援する考えを打ち出した。これに対して中国は、米国の姿勢が地域の緊張を高め、安定を損ねていると猛反発している。

中国版海兵隊は本格的に組織化されてからまだ日が浅く、米国の域に達するには程遠い。ただ中国の全般的な軍拡は非常に急速で、既にアジアのパワーバランスを変化させている。それまで20年間は海軍の大規模な水上・潜水艦隊やミサイルの整備を通じて沿岸防御力を拡充させてきたが、習近平国家主席が就任した2012年以来の軍近代化を通じ、遠隔地への政治的な影響力を高める目的で、強襲揚陸艦や上陸専門部隊の導入に動いている、というのが中国と西側の軍事専門家の見方だ。

米軍と日本の自衛隊の見積もりでは、中国版海兵隊は人民軍の海軍の指揮下で拡張されており、現在2万5000~3万人の兵力を有し、17年時点の1万人から急増している。

日本戦略研究フォーラムのグラント・ニューシャム上席研究員(元米海兵隊大佐)は「上陸部隊なくしては、どんな軍隊も作戦可能な地域や方法が非常に限定されてしまう」と説明する。18年に自衛隊が水陸機動団を発足させた際に助言を与えたニューシャム氏は「航空機は爆弾を投下できるし、艦艇は沿岸からミサイルを撃てる。しかし敵地を占領するには歩兵部隊が上陸して敵軍をせん滅する必要が出てくるのではないか」と述べた。

もちろん中国版海兵隊は、中国共産党が国民に対し、解放軍がいかに強大化しているかをアピールする上でも重要な存在になった。その一環として国営メディアは定期的に、南部の海南島に拠点を置く特殊部隊「蛟龍」の訓練風景や兵員の能力などを伝えている。昨年国営テレビの取材に応じた訓練中の同部隊の司令官は「われわれは敵の心臓部に恐怖を与えるための陸海共同作戦において剣の先端になる必要がある」と話した。

075型が就役すれば、他の同様の新艦隊と共同運用させることで本土から遠い地域で独立任務を行い、中国の海外投資や海外居住者を保護したり、軍事力を見せつけて潜在敵国を抑止したりすることが可能になる。今は米国が特権的に行使し、米国のソフトパワーを形成している活動、つまり世界各地の災害救助や人道支援でも中国が対抗できる。