しかも民主党内の中道派と進歩主義は水と油の関係にある。バイデン候補の呼びかけは、トランプ大統領という共通の敵を倒したと考えている民主党内の「Unite」を促そうとしたものでもある。民主党内の混乱が、国民にまで拡大しないよう期待した、という印象がぬぐえないのだ。民主党員の中には「Unite」とは誰のためのものか、と考える人も多いという。それくらい、民主党内はまだバラバラの状態にある。
「国民の一票」が無視された選挙だった
今回の大統領選挙は、激戦州で超僅差の勝負が長期間続いた。そのため全米で勝利を祝うという伝統とはかけ離れ、当選のための選挙人数「270」を満たすのに必要な州盗り合戦のようになっていった。
「全州での集計終了」とメディアが一斉に報じた2020年11月14日の段階でも、例えばニューヨーク州はまだ75%しか開票が進んでいなかった。つまり政治家もメディアも、「米国民の一票」の価値を無視している。極めて異常な事態だ。
「亜米利加合衆国」(USA)は、1820年代にオランダ風説書を日本語訳した時に作られた言葉である。オランダは欧州で初めて米国を独立国として認めた。独立戦争に味方したフランスに次ぐ米国の理解者で、その日本語名も、日本人がオランダ人から事実を正しく聞き取ったことを示している。
米国は州の集まりながら、連邦政府の政策は、個人が選挙で直接の意思表示を行う制度をとっている。これが大統領選挙だ。従って、今も州ごとの大統領選挙人数は国勢調査に基づいた人口の増減に合わせて調整され、一票の重さを可能な限り等しくしようとしている。
では、「なぜ『合州国』と書かないのか」と質問する日本人も多いが、それは南北戦争時の南部のConfederate States of America(CSA)のような集合体を意味するからであろう。CSAの日本語名はアメリカ連合国だが、直訳は「合州国」となる。CSAはUSAから脱退した州の連合で、州民の意思は州政府を通して示されていた。
決して埋まらない理想と現実のギャップ
この間、黒人奴隷は選挙権を持たなかったうえ、国勢調査を基に各州の大統領選挙人を決める際には、自由人(白人)の3分の1として数えられた。南部の白人は少なく、白人だけの多数決では合衆国の国政に意思を伝える力が弱かった。
アメリカ連合国も建国の父達の功績を認め、例えばワシントン大統領の切手を発行しているが、アメリカ合衆国の建国の理想は、すべて「人民の人民による人民のための政治」であり、それはやがてリンカーン大統領のゲティスバーグ演説に受け継がれる。