「例えば一時的に出していた『いくら鮭丼』は吉野家の白いごはんでは環境的に耐えられない。だから、すぐに廃止しました。これは営業部と商品部が打ち合わせして決めたことで、僕らには事後報告でした。何しろ時間の余裕がないから」

こうしたやり取りを続けたのち、業績は回復し、牛丼以外での戦いもできるようになったのである。

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逆境に勝つ組織の要諦は「わかるまで聞く」

「議論をするところでは自分はこう思うということを主張してかまわない。そのかわり、議論を尽くしたうえで決まったことならば、たとえ自分と違う意見であっても、今度はそれを達成するために100%の力を発揮することができる」

また、いいことはいい、悪いことは悪い、分からないことは分からないこととしてちゃんとコミュニケーションを取り、自分の中で意見を持つ。

「議論はとても白熱するし、そのときには上司だとか年上なんて関係ない。それぞれの主張のロジックを戦わせているだけで、人格は別です。意見が違うときも、しっかりと『私はこう思うと言うように』と言っています」
「また、解らないことは『解らない』、『なぜですか』と聞くことをよしとします。ふつう、日本の会社では『なぜ』を三回も続けて上司に言うと、『お前失礼だ、生意気だ』とか『そんなことごちゃごちゃ言うな、めんどくさいやつ』というようになりますが、吉野家では、わかるまで聞くことをよしとします」

議論をするということにおいて、また分からないことを分かるように説明を求めることにおいては、「生意気なくらいであるほうがいい」とするのだ。

「生意気をよしとする企業風土」はピンチに強い

しかし、どこまでいっても見解が異なるときはどうするのか。

「組織図というのは業務的な機能体を表す図面というふうにだけ思いがちですが、加えてあれは決定のシステムを表してあるものです。この部門の長はこれで、その部門の部下はこれでということで、その中の決定権者の順位が示されているのです。なので、その部門の中でのテーマはもちろん是々非々の議論はやるんだけれども、最後に決めるべき立場の人が決めたら、あとはそれに従ってそれを成立させるためにどうするか、全員が全力を発揮するだけです」

だからこそ、不満分子を抱えることなく、100%の組織力を発揮できる。

「だいたい、会社とか上司のやることに対しては悪口のほうが多いのが普通でしょう。単なる悪口や愚痴も建設的ではありませんが、それと同時に、決定したことに対して『自分はそうは思わないからやらない』というのでは組織の硬直・閉塞で、そういった組織では前へ進みません。組織運用は持っているエネルギーをいかに歩留まり高く同じベクトルに向かわせることができるかということで、リーダーの仕事はまさにそれです」