開発の足を引っ張った「変に高いプライド」

中国、韓国勢に追い上げられ、青息吐息だった造船業の復権を狙って立ち上げた大型豪華客船事業でも三菱重工は2400億円もの損失を計上している。特に豪華客船は「海に浮かぶホテル」とも呼ばれ、内装など凝った設計が要求される。「駆逐艦や巡洋艦を造っていた感覚でやられたらたまらない」(海外大手船会社の担当者)。

結局、船主から何度も設計変更を迫られ、なんとか完成にこぎ着けたが、赤字を垂れ流したまま客船事業からの撤退を余儀なくされた。

SJの開発では、三菱重工の技術者の「変に高いプライド」も開発の足を引っ張った。相次ぐ開発の延期に自前主義を捨て、打開を目指すべく着手から10年が経過した2018年、カナダの航空機大手などから外国人の技術者を多数集めた。しかし、三菱重工の技術者とそりが合わず、現場で対立が続いた。

日当10万円を超える「お雇い外国人」を雇ったものの開発のスピードは上がらず、相次ぐトップの交代で現場の士気は落ちていった。

戦艦「武蔵」や「零戦」を生んだプライドは崩れ去った

SJの開発と同時期にブラジルの航空機メーカー、エンブラエルも次世代の小型ジェット旅客機の開発を進めていた。民営化したこともあり経営や財務状態は安定していなかったが、実際に開発に先行したのはエンブラエルだった。苦戦する三菱重工を尻目に2018年に初号機の納入にこぎ着けた。

写真=iStock.com/Liner
ブリティッシュエアウェイズ傘下のシティフライヤーが運航するエンブラエルE190、グラスゴー空港にて(※写真はイメージです)

一方のSJは現在も商業運航に必要な認証の「型式証明」を取得できていない。すでに6度も開発を延期、2008年当初1500億円としていた開発費は1兆円規模に膨らんだ。

事業を担う三菱航空機は2020年3月期に4646億円の債務超過に陥った。三菱重工が債権放棄と増資引き受けに応じて資金支援したが、新型コロナ感染拡大で航空機需要が蒸発、事実上の事業断念に追い込まれた。

「開発力が落ちている」——。SJの開発を引き受けた宮永俊一会長はグループの会合でこう漏らした。豪華客船に民間航空機。戦艦「武蔵」や「零戦」を生んだプライドは跡形もなく崩れ去っていく。

造船は規模に勝る中韓勢に水をあけられ、昨年12月には専業の大島造船所に長崎造船所に2つある工場のうち主力の香焼工場を売却することを決めたのだ。