男子をおだてることが「モテ」テクなのか

少し前に、『おしゃカワ! ビューティー大じてん』(成美堂出版)という小学生の女子向けのファッション指南書がTwitterで話題になったことがありました。背伸びしたいお年頃の女子に、おしゃれの方法を解説するという趣向自体はほほえましい内容だとも言えると思います。

でも、読んでいくと「カレとのデートはうるうるナミダぶくろメイクがカギ」とか、「ボクたちこんな女の子が好き トップ5」「これでカンペキ! モテしぐさ12連発」などと続きます。「おしゃれ」するのは男子に「モテ」るため、という価値観が一貫しているのです。

極めつきは、モテるための「キュートな会話テクニック」として「男の子はホメられるのが好き!」と、男子を喜ばせるためのあいづちを「さしすせそ」で説明している箇所。「さしすせそ」とは「さすが!」「知らなかった!」「すごい!」「センスいい!」「そうなんだ!」の五つのフレーズで、「心からホメることが大切だよ!」と念を押しています。

ちなみに、この「さしすせそ」は大人の世界で「合コンさしすせそ」と呼び習わされてきたものです。意味をわかった上で自覚的にしている大人ならともかく、小学生にまで男子をおだてることを「モテ」テクとして指南するのはどうかと、Twitterで批判が沸き起こりました。

「さしすせそ」が男性の幼稚さを許してしまう

恋バナ収集ユニット「桃山商事」代表で、ジェンダーに関する執筆も多い清田隆之さんは、「男性はなぜ『さしすせそ』をされると気持ちよくなるのか」こそが問題の根幹であり、「男の子はホメられるのが好き」というより「ホメられないと機嫌を損ねる」というほうが実態に近い、これは男性が自分自身では自尊感情を供給できないことのあらわれではないか、と喝破しています(※2)

太田啓子『これからの男の子たちへ「男らしさ」から自由になるためのレッスン』(大月書店)

漠然とした不安を他者からの賞賛で満たすことは女性にもあるでしょうし、時おりやお互い様なら構わないでしょう。しかし本来、自分の機嫌は自分でとるのが大人の態度で、子どもにもそうできるよう育ってほしいものです。ところが「男性を立て、手のひらで転がすのが賢い大人の女性」といった言説があるように、なぜか男性が女性に機嫌をとってもらえることを許容する風潮が一部にあります。そうするとそれに甘え、自分で自分の機嫌をとる訓練をせず(したがって上達もせず)、それどころか女性が男性の機嫌をとることを自明としてしまう男性が生まれるということなのでしょう。これは男性の幼稚さを許容してしまう悪しき文化だと思います。近年知られるようになった「マンスプレイニング」も、男性が女性に対して上からものを教える態度を通じて、女性を利用して男性が気分がよくなるという現象なのでしょう。

女性の側も、「男を立てる女のほうが一枚上手」などと、男性を褒めて気分よくさせてあげることを肯定的に語ることもあります。しかし、その労力をとってあげるケア役割が常に女性側に固定化してしまうのは、やはり対等な関係性とはいえません。性差別意識が強い社会では、女性のそういう立ちまわり方が処世術のように機能することも実際にあるでしょうから、状況によっては女性を非難するのは酷かもしれません。でも、やはり対等な関係性ではないということを女性も直視すべきでしょう。少なくとも、次世代に引き継ぐべきものとは到底思えませんから、『おしゃカワ! ビューティー大じてん』のような発想のものが子どもの周囲にあったら、娘にも息子にも、要注意であることをきちんと伝えたほうがいいと思います。