日産自動車の「実質2位の大株主」は国
現状は、金融機関の判断で議決権行使しているのでGPIFや日本銀行、ましてや政府が関与することはない、というのが建前だ。だが、実際には、大株主としてGPIFやその監督者である政府が影響力を持つ場面が実際に起きている。
フランスのルノーが発行済み株式の43.4%を保有する日産自動車では、2位以下の株主には証券を保管する信託銀行の名義が続き、具体的な社名が出てくるのは6番目の日本生命ぐらい。日本生命の保有株は5402万株で、発行済み株式数の1.28%だ。しかしGPIFが公表している保有株一覧によると、GPIFは5.4%に相当する2億2902万株を保有している。実質2位の大株主なのだ。
日産を巡っては数年前にルノーが日産の支配権を強化しようと動き、カルロス・ゴーン失脚後の取締役選任などで対立した。その際、経済産業大臣に近かったGPIFの幹部が、日産の幹部に繰り返し接触。日産側は「実質大株主として、いろいろアドバイスをいただいた」(元取締役)という。
具体的にどんなアドバイスをしていたのかは分からないが、日産を日本企業として守ろうと動いていた経産省や政治家が、GPIFの大株主としての力を使おうとしたのかもしれない。
実質「国有化」が進めば、日本経済はゾンビ化する
企業経営者にとっては、公的資金による株式保有は「モノ言わぬ株主の復活」と感じるかもしれない。
生命保険会社や年金基金などの機関投資家は、近年、保険や年金の契約者の利益を第一に考えた議決権行使を求める「スチュワードシップ・コード」によって、会社側の提案でも「否」を投じるケースが増えている。業績悪化が続く経営者の再任に反対する例も増えている。また、海外のアクティビストと呼ばれるファンドからはまとまった反対票が投じられることも少なくない。そんな中で、GPIFや日銀ならば、そんなに厳しい議決権行使はしないだろう、というわけだ。
そうした経営者の「緩み」を公的資金による株式保有は生む可能性がある。また、GPIFや日銀に株を売られたくない企業が、こうした機関に影響力を持つ人物の天下りを受け入れることなども将来起きるだろう。
新型コロナ対策で検討されている「優先株」なら、議決権がないので問題ないだろうと思われるかもしれない。だが、議決権がなくてもその資金に支えられていることは変わらず、政府系金融機関やその背後にいる財務省、政府による間接支配が起きる懸念がある。
実質「国有化」の流れがこれ以上進むと、民間企業としての活力や経営者の気概が失われ、日本経済全体を「ゾンビ化」させることになりかねない。