「防げたはずの死」がこれから多発する

こうした状況がおよぼす影響の一つとして、世界中で患者の受診回数が減ったことが挙げられる。数多くのCTスキャン、大腸内視鏡、MRIによる検査が取りやめになったのだ。パンデミックとは別の原因による、未然に防げたはずの死が、近い将来に多発することが予見される。

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企業では、顧客だけでなく、事業を維持するための運転資金や資本が不足し、倒産が続発する恐れがある。たとえば、旅行会社、航空会社、クルーズ船の運営会社、ホテル、レストラン、舞台芸術や興行会社が代表的だが、さらには、自動車会社、繊維会社、航空機製造業者、水上レジャー産業の会社、化粧品会社、ぜいたく品の会社など、他にも多くの企業が影響を受けるだろう。

反対に、危機に乗じて売り上げが増えた製品、雇用を増やした産業、業績を伸ばした産業がある。たとえば、一部の治療薬、医療機器、衛生用品、基本的な食料品、宅配業、物流業、視聴覚メディア、オンラインの娯楽、インターネット通販、オンラインチャット、出会い系サイト、オンライン会議用アプリ、家庭用品の修理業、中古品販売業などだ。また、超高級品などの一部の産業も売り上げを伸ばした〔富裕層が自宅で快適に過ごすための環境整備を行うなどしたため〕。

栄養失調に苦しむアフリカの人口は3倍になる

今回の危機は最貧国にとりわけ深刻な影響をおよぼした。

第一に、都市部の基本食が脅かされた。自宅待機を理由にアフリカの農民は畑で働くことができず、交通や物流も遮断されたため、農業の生産量は減少している。だが、自国の生産不足を輸入で補うことはできない。というのは、農業の輸出大国(ロシア、インド、ベトナム、タイ)が輸出を減らしたからだ。国連世界食糧計画(WFP)の見通しによると、2020年に栄養失調に苦しむアフリカの人口は、前年比3倍の2億人を突破する可能性があるという。とくに懸念されるのは、新型コロナウイルス感染症による物流供給網の分断に加え、バッタの大群と洪水による被害を受けたアフリカ東部だ。

新興国で起きている「失業」の深刻な影響

新興国では、社会保障制度の枠組みから漏れた人々に失業が大きな影響をおよぼす。

インドでは就業者の3分の2は労働契約を結んでおらず、政府が保護するのは4億7000万人の就業者のうちの19%でしかない。インドの失業率は3カ月間で8%から26%に跳ね上がった。1億4000万人以上の出稼ぎ労働者は、雇用を失い極貧状態に陥る恐れがある。6月初め、パンデミックが収束状態には程遠いにもかかわらず、インド政府は外出制限措置の解除を強いられた。

バングラデシュでは、貧困地区や農村部における最貧層の平均収入は、2月から5月にかけて80%以上減少した。バングラデシュ政府のデータによると、貧困線〔生活必需品を購入できる最低限の収入〕以下で暮らす人口の割合は、20%から40%へと倍増する可能性があり、非公式経済で働く人口の85%は深刻な影響を受けるだろうという。