力士のような力強さで、胸の肉をかき集める
試着室に舞い戻ってきた神田うのが、しぶい顔をした。
「ああ……お客様。胸のお肉がぜんぜんブラに入ってないですよ。一度、ちゃんと入れてみますねー」
ガッサー!
わたしの脇のお肉をガッサー! とつかみ、力ずくで前にもってくる、神田うの。
足を肩幅に開き。指先に力を込め。
力士のような豪快さ。肉という肉を1グラムたりとも逃さんという、気概を感じる。
「あと、ストラップも下がりすぎてるので、上げますね」
ブラのストラップが、グイグイ上がっていく。砂漠の井戸から、水をくみ上げるように、上がっていく。
わたしの胸に、でっけえメロンがあった
次の瞬間。
わたしの胸に、メロンがあった。
石原裕次郎のお見舞いのときみたいな。でっけえ、でっけえメロンがあった。
なんていったらいいんだろう、この感動。
修学旅行で訪れた安い店のビッシャビシャのウニを食べてウニが大嫌いになり、社会人になり旅行で訪れた北海道でマジもんのウニを食べて「いままで食べてたウニとは一体……?」となった、あの感動がよみがえる。
「お客様のお胸のお肉は、全部、お腹と背中に逃げてたんですよ。ストラップもゆるゆるで、サイズの合っていないブラを着けられてたんですね」
わたしの乳は、どうやら、集団疎開していたようです。
いつの間に……?
開戦した覚えも……ないのに……?
「まだお胸のお肉が横にあふれてるので、あと2カップ上げてみましょうねー」
サッと姿を消したかと思えば「それ峰不二子しか着れへんのとちゃうの?」みたいなブラを手に戻ってくる、神田うの。
さらにガッサー! と、お胸のお肉というお肉をかき集める、神田うの。
もうね、自分の身体なのに、信じられない。
「ワレ、乳やったんかオイ!」みたいな肉たちが、一斉に集まってくる。どんどん、姿を暴かれていく肉。もう、おっぱい公安警察のお出ましである。
「どうですか? 谷間ができましたよー」