基礎科学部門◎大隅良典

本当の意味でのサポートのかたち

私は基礎科学部門で受賞したわけですが、この賞は基礎科学部門と先端技術部門とが明確に分かれているというのが、とても素晴らしいことだと思っています。

東京工業大学栄誉教授 大隅良典氏

ノーベル賞は1つの部門の中で、技術面で貢献したものと、科学での貢献が入り交じっています。特に近年は、科学と技術がお互いに非常に接近して、どこまでが科学でどこまでが技術かの境界が見えにくくなっていますので、ある意味では当然のことです。

しかし、私は科学(サイエンス)と技術(テクノロジー)は厳然と違うものだと思っています。そういう意味で自然科学の中で基礎科学部門と先端技術部門と、2つがきちんと位置づけられている賞というのは素晴らしいと思います。さらに思想・芸術部門があるというのは京都賞の特筆すべき点だと思っています。

私がいただいた基礎科学部門は、生物科学、数理科学、地球科学・宇宙科学、生命科学の4分野に分かれています。従って「生命科学」の研究者が受賞するのは、4年に1度です。「先端技術部門」も「思想・芸術部門」も同様です。生命科学部門では、海外の受賞者も多いので、私の前の日本人受賞者は20年前で、西塚泰美先生でした。

中にはノーベル賞の対象になりにくい分野もあります。例えば「生物科学」もそうです。生態、分類、進化などではノーベル賞は受賞しにくい。そうした分野が対象となりうるのは、京都賞の大事な特徴です。

また、ノーベル賞は数学が対象になりませんし、それもあって、京都賞の「先端技術部門」の「電子科学(エレクトロニクス)分野」には、世界的にとても高い関心が集まっていることを、私と同じときに先端技術部門で受賞したコンピュータ科学者のサザランドさんがおっしゃっていました。そうした京都賞の大きな特色を、大事にしてほしいと思っています。

私は今、日本において基礎科学が大変ピンチに陥っていると思っています。若い人が基礎科学に向かわないし、向かえなくなっている。大学院の博士課程に進む人も減っているので、大変心配しています。なかなか先が見通せないと思うからでしょう。

でも、例えば私の研究しているオートファジーは、がんの治療に役に立つと思って始めたわけではありません。「役に立つ」という基準だけで価値を決めようとするのがそもそもおかしいと私は思っています。これまでわからなかったことが解けたという感動を、単純に素晴らしいと思えることが大切ではないでしょうか。