電池の技術を持たないテスラがEVで覇権を握った
上記、2つのポイントと密接に関係しているが、日本のビジネスパーソンはITに対して苦手意識を持っており、その反動からかITを見下げる傾向が強い。日本はモノ作りの国と言われるが、モノ作りの例として取り上げられるのは、ほとんどすべてが機械類などのハードウエアである。
ソフトウエアもれっきとした工業製品であり、完璧なソフトウエアを開発するという行為もモノ作りの神髄なはずだが、むしろ日本社会はITを軽視してきた。
次世代の主力産業となるEV(電気自動車)関連でも日本はIT軽視で手痛い失敗をしている。EVのカギを握るのがバッテリーであることは一目瞭然であり、電池関連の技術でトップを走っていた日本メーカーは、EVへのシフトが進めば、大きな利益が得られると予想されていた。
だが現実にEVのバッテリーで主導権を握ったのは、電池に関する技術をまったく持っていないテスラだった。
日本メーカーは、EV用途に耐えられる大型の専用バッテリーを開発しようと躍起になっていたが、なかなかうまくいかなかった。ところがテスラは既存の小さなセルを無数に組み合わせ、すべてのセルをソフトウエアで制御するという驚くべき手法で開発を行った。
日本メーカーは当初、ITを駆使するテスラをバカにしていた。しかし結局、覇権を握ったのはソフトウエア技術に注力したテスラであった。
ITというのは非連続的な技術であり、場合によっては従来の枠組みを一気に破壊するポテンシャルを持っている。カタチのあるものだけをモノ作りとし、目に見えないソフトウエアを軽視しているようでは、ビジネスのデジタル化は進まない。
ネットワーク上の仮想空間にデータやプログラムを保存するクラウド技術は今では当たり前のものになっているが、米国企業がこうした概念を打ち出した際、多くの日本企業は「貴重なデータをネット上で管理するなどあり得ない」と彼らをせせら笑っていた。
今となっては、クラウド技術で米国に追いつくのは不可能であり、彼らの技術を使う意外に道は残されていない。こうしたITを軽視する感覚はいまだに日本社会に蔓延しており、これを乗り越えなければ、本当の意味でのデジタル化は実現しないだろう。