海外転勤でうつを患い途中帰国するケースも

出世に興味がないビジネスパーソンからすれば、勝手のわからない海外生活にリスクと不安を抱えるのも無理のない話です。

ですから、私は一概に若手社員の海外勤務離れを非難する気にはなりません。実際、英語力があって現地でコミュニケーションが取れるマネージャー候補の優秀な若手でも、耐切れずに途中帰国する人が少なからずいるようです。

10年近く前になりますが、中国への赴任後にうつやアルコール依存になるケースが増え、企業の人事部からその実態や対策の調査を依頼されて、私も中国やインドに出張したことが何度かありました。話題の武漢でもJETRO(日本貿易振興機構)の依頼でうつ予防に関して講演会の講師をしたこともあります。現在はひどくイメージが悪化した武漢ですが、私の印象としては近代都市、学園都市で、緑と湖沼の美しい町並みが多く、好印象があります。仕事で視察した武漢市にある湖北省の衛生対策設備も近代的でした。ただ、これからは喜んで武漢に赴任していく人はいないかもしれません。

MBAホルダーもワークライフバランスを重視

海外勤務どころか、昇進自体を嫌がる若手社員もいまではふつうにいます。官公庁でさえ、優秀な若い職員たちが昇任試験を受けなくなっているようです。彼らは課長、部長、局長になっても報われないと感じているのかもしれません。

いまや出世しなくても、結婚して夫婦で(あるいは結婚せずとも生活のパートナーと)共働きすれば、生活にそれほど不自由はしません。むしろ、海外転勤したり、管理職になったらワークライフバランスがおかしくなるかもしれないのです

ハーバード大学のMBAホルダーたちがキャリアマネジメントの中で一番重要視しているのは、いまやワークライフバランスです。そしてそれは日本のかつての管理職たちの意識の外にあった価値観のはずです。YES、NOを言いたがらない若い彼らが口にするNOには、相応の重みがあるように思います。